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 Googleが2020年にオンライン広告の取り扱いから得た売上高は1,470億ドル(約16兆3000億円)で、他のどの企業も圧倒しています。ITビジネスをけん引する検索エンジンやSNS、オンライン動画共有プラットフォームは、ユーザー利用は無料(有料化で広告を止める)でも、それを支えているのは広告収入です。

 私のいるジャーナリズム業界も、大手新聞社は読者の軸足がウェブに移行したため、それまで紙媒体で得ていた購読料と広告収入をウェブに移すことに葛藤してきました。今では多くの新聞社が購読料を得るために会員登録し、さらにウェブ広告掲載で収入を得ることで時代に対応していますが、今度はウェブ広告をブロックするソフトと戦っています。

 産業革命以降のコマーシャリズムを支えた代表格はテレビで、ニュースやドラマなどを視聴するたびに大量のコマーシャルが流されるビジネスモデルが確立しています。

 好むと好まざるとに関わらず、コマーシャルを見ることを強要され、視聴者が番組で見たいこと知りたいことは、コマーシャルで挟まれる手法が一般化しています。

 すっかり定着したコマーシャリズムはネットの登場で再考の時を迎えているように見えます。なぜなら、ウェブではテレビや新聞メディアのようなしっかりした規制がないだけでなく、情報提供者とコマーシャル提供者が一体となっている場合が多いからです。

 たとえば、コロナ禍で世界中で高まっている健康管理への関心、特に血圧やコレステロール、体重など生活習慣病と結びつく情報を多くの人が必要としています。ところがGoogleで検索すると、提供されている情報の多くはサプリメントや健康器具を買わせるための誘導広告である場合がほとんどです。

 つまり、お金を使わずに生活習慣を改善しようとする人には、それを正しく行うための有益な情報を得にくいのが現状です。企業は自社製品で利益を得るため有益そうな情報を専門家の意見などで提供しているように見せかけながら、実は物を売ることが目的で客観性を持った質の高い情報とはいえないものの山です。

 自分で判断するための客観的な知識を得たいだけなのに、結果的に「これを買えば問題は解決する」という誘導のための情報提供が多く、調べれば調べるほど答えのない迷宮に迷い込み、物を買わせるための情報にうんざりすることもあります。

 人が高学歴化することで、判断力も付き、自分で情報収集して自分で判断したい人は増えているのに、健康に関しては、個人の判断より、洗脳的コマーシャルで利益を上げるための情報提供が多いことに気づきます。

 そういうと「コマーシャリズムは有益な情報を流すためにあり、経済を回す意味でも間違っていない」という資本主義礼賛者の声も聞こえてきそうです。

 それに最初から質の高い情報をタダで得ようということ自体が間違っているといわれれば、それも1理あります。われわれはなんでも情報をネットで得る時代になり、情報は無料と勘違いしやすいのですが、そうではないのも事実です。

 紙媒体とネット媒体が共存するジャーナリズムの世界で働いていると、収入源が閉ざされると質の高い情報を取得するためのコストもかけられなくなります。

 20年前、多くのフリーランスを直撃した状況は今も改善されたとはいえません。潤沢な資金がなければ質の高い情報は得られません。そのため大手メディアも現場取材が手薄になり、通信社の記事に頼ったり、ネット上に流れている情報を孫引きすることも多々ある状況です。

 企業の紐付き情報ではない独立した質の高い情報を得るのが難しいことは、不幸というしかりません。

 たとえば、中国の新疆ウイグルで中国政府が強制収容所を建設し、100万人を超えるウイグル族の人々に強制労働を強い、女性は不妊手術までされている現状を、丹念に取材した英BBCや米ウォールストリートジャーナルは潤沢な資金あってのことで、世界の中国に対する認識を変えました。

 調査報道に徹すれば、人も資金も必要です。その資金を得る方法は情報を買う人からか、コマーシャル、あるいは資金援助する個人や組織しかありません。デジタル化が進む中、質の高い情報を得たい人と、その情報を提供する側がウィンウィンの関係になる方法を見つけるしかありません。

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