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 今月明らかにされた日本の人事院による国家公務員意識調査を見て「日本の職人文化はいよいよ転換期に差し掛かっている」という印象を受けました。離職率が高まっている背景に、過重労働のわりにキャリア形成に繋がる成長実感がないことが挙げられており、働き方への疑問が浮き彫りになりました。

 公表された調査結果では「業務量に応じた人員配置」について、4割以上の公務員がネガティブな評価を行い、過重労働に繋がる仕事の非効率や人事が適材適所に行われていないことへの不満があることが明らかになりました。同時に多くの仕事をこなす中で自己の成長に繋がるキャリア形成の実感がなく、将来のイメージを描けないとの不満と不安も明らかになりました。

 世の中は、ますます専門性が高くなり、将来、総合力が問われるリーダー職に就く人間でも、かなりの専門知識が要求される時代です。政治の世界でも感染症についてやデジタル化について専門家の意見を政治的に総合判断するためにはかなり高い専門知識がなければ理解することさえできません。

 民間企業と異なり終身雇用の公務員なので、レールに乗っていわれた仕事を日々そつなくこなしていれば安泰という時代は終わりを迎えようとしています。そんな時代の中にある40代までの公務員は特に将来に不安を抱えているのは当然といえるでしょう。

 人事院としては上司が部下に対して成長を支援する努力を強調していますが、そもそも上司にそのような能力が備わって、高いポジションについたというわけでない場合が多いことを考えると、部下の能力を引き出すスキルそのものが怪しいといわざるを得ません。

 翻って成長を望む部下の方も、空気を読めない忖度できない今の若い世代は上司から見れば、お手上げ状態という側面もあるでしょう。官民に関係なく浸透した職人文化では、仕事を覚えたければ師匠の背中を見て学べということになりますが、そんな習慣も若い世代にはありません。

「教えてくれなければ分からない」といわれ、呆れる上司も少なくないでしょう。そこには自主性のなさも伺えます。日系の大手電機メーカーで研修を担当させてもらい、感じたことは、手取り足取り教えるのが当然という考えでした。自ら考え、自ら決めて行動する主体性はほとんど存在しない状態でした。

 上司は部下の能力を引き出し、成長を支援するスキルに欠け、部下の側は学び取る学習能力が低下している中で、働き方改革を行うのは非常に困難なものを正直感じます。つまり、長い間終身雇用にあぐらをかいてきたために日本の優れた職人文化を支えてきた大前提が崩れているといわざるを得ません。

 適正人事の問題は、自分に合わない仕事をさせられることも自分を成長させてくれる人事と過去には受け止める面もありましたが、今は不適正な人事で公務員をやめる人は少なくないようです。古い世代はやめる人間に忍耐力がないと批判し、辞める方は何も得るものはなかった、仕事が楽しめなかったと結論付けている構図です。

 しかし、新しい世代がどうであろうと、問題の改善に責任を持つのはリーダーであり、経営陣です。特に公務員の場合は、リーダーシップに対して未だに半世紀前のような意識しかない人も少なくありません。成長しなかった主原因ついて、私は意志決定者の権限と責任のアンバランス、公務員独特の保身の体質、あくまで下が上を支えるべきという考えの強さが挙げられると思います。

 官僚に求められているのは処理能力の速さ、高い理解力、いい意味でも悪い意味でも忖度を含む学習能力ですが、それがたとえ高学歴者であったとしても過重労働の中で成長しているという実感がないのは深刻です。

 これは民間企業でも課題になっていることで、職人文化を脱して、意志決定者としての自覚を持ち、リーダーシップとマネジメントの違いも理解しつつ、その両方で力を発揮できる人材を早急に育てていくことが求められているといえそうです。

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