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 フランスに長年住んだ経験から、日本でそれほど関心を持たなかった失業率に目が行くようになりました。なぜなら、フランスの失業率は移民問題、治安問題と並び、毎回、大統領選挙や総選挙で主要テーマになるからです。ではコロナ禍の1年で主要国の失業率はどう変化し、どう読むべきなのでしょうか。

 結論からいえば、現時点での日本の完全失業率は、経済協力開発機構(OECD)の統計によると、今年3月時点で日本は2.6%で主要国で最も低く、この1年で見て最悪だった昨年10月でも3.1%と、これも先進国では最低水準でした。

 一方、米国は今年3月時点で6.0%と英国(4.9%)やドイツ(4.5%)よりは高い数字ですが、最悪期の昨年4月には14.8%にまで上昇し、スペインの昨年8月の16.7%に次ぐ高さでした。フランスは今年3月時点で7.9%で最悪期の昨年9.3%より改善されているだけでなく、コロナ禍直前の昨年1月の8.2%からも改善されています。

 完全失業率を見る上においてその国の雇用制度を見ておく必要があります。米国や英国は雇用制度の柔軟性が高く、企業は雇用も解雇も容易にできるため、コロナ危機での解雇が顕著に表れた米国は、その後の回復も早かった一方、被雇用者保護の傾向の強いフランスなどは解雇は容易でないため、アメリカより失業率が上昇した時期も回復した時期も遅かったという事情があります。

 英国は雇用助成金でなんとか失業率を低く抑えられていますが、ワクチン接種が進んでいても秋以降に助成金がなくなると、再び失業率は上昇する懸念があると専門家は指摘しています。

 もう一つの注目点は若者の完全失業率で、最も低い日本でさえも今年3月時点で、24歳以下の失業率は4.8%と高く、米国は11.1%です。最も高いスペインに至っては37.7%、イタリアは33.0%、フランスも19.5%と高水準です。

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 失業率はその国の経済状況の堅調さの指針ともいわれ、米国の脅威的回復力は、米国経済の力強さを物語っています。米国は24歳以下の失業率でも最悪だった昨年4月には27.4%だったのが、今年3月に11.1%にまで抑えられたのは他の主要国には見られない現象です。

 それでもほぼ全ての主要国が回復しているとはいえ、昨年1月時点より失業率が今年3月時点で、もとに戻っていない中、フランスは全世代の完全失業率が昨年1月時点より低く、24歳以下の失業率も昨年1月の19.7%が今年3月には19.5%とほぼ同じレベルに回復しているのを見ると、フランス経済は堅調な回復を見せているように見えます。

 ところが日本の場合は、世界的に見れば最低水準とはいえ、コロナ前の昨年1月時点の24歳以下の失業率が3.8%だったのが、今年3月時点で4.9%、今年1月には5.8%と高止まりしています。これはコロナ禍の影響に対して日本経済の回復力が、ワクチン接種の遅れも影響し、けっして褒められたものでないことを示しています。

 無論、経済の安定性を失業率だけで見ることはできませんが、今の日本の政権への信頼度の低下につながる内容です。日本はフランスほど総選挙で失業率が主要テーマになることはありませんが、国民が経済の脆弱さを感じ始めると政権不信は高まるのは必至です。

 コロナ危機に対処するのは、落とし所を探ったり、世論が熟すのを待つなど超受け身の姿勢では対処はできないでしょう。明確な見通しを示し先手先手を打つ必要があり、コロナ対策、経済政策の後手後手感、決められない政治は政権の支持率を下げる一方です。

 日本は世界の主要国で最も失業率が低いことにあぐらをかいている場合とは思えません。特に若者の失業率が高止まりしていることは気になるところです。

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