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 この数年、中国の台頭とともに、自由市場主義や民主主義の脆弱性が浮上し、コロナ禍でさらにそれが明確になりました。自由と民主主義を信じる国々は、国の安全保障に関して、自由競争原理や国の意思決定のあり方を見直す動きを見せています。

 それを象徴するのが、無線通信機器や半導体業界の国産化の動きです。特に5G導入について米国だけでなく、英国、欧州は中国の華為技術(ファーウェイ)を排除する動きに出ています。同時に世界の無線通信機器市場を独占してきたファーウェイ、スウェーデンのエリクソン、フィンランドのノキアに対抗するメーカーのビジネスチャンスが広がっています。

 特に米国では政府の後押しもあり、世界3大メーカーに押されて衰退し、業界から撤退していたような米無線通信機器メーカーが息を吹き返す動きが出ています。90年代に世界中で目にした米メーカーのルーセントやモトローラ、シーメンス、アルカテルの名が再び市場に戻り、激しい競争を繰り広げているわけです。

 本来、自由競争原理の中で勝利した3大メーカーが、国のサンバーセキュリティ対策重視の結果、国内メーカーが復活した形です。皮肉にも競争原理の中に放置され、結果として安全保障を脅かす中国企業の台頭に気づいたことで、国内メーカーの競争が始まり、コストとイノベーションの成果は顧客に還元される可能性も出てきたということです。

 このような現象が今後、さまざまな分野で起きる可能性があります。コロナ禍で物流が滞り、サプライチェーンの寸断を経験したグローバル企業も、国策として輸出規制をかける中国などに重要な部品を依存するリスクに気づかされ、生産拠点のリセットを考える企業も増えています。

 特に、半導体やレアメタルのような欠かせない物を自由競争原理を悪用し、覇権を狙う国に依存することを避ける動きが出ています。相手は自由市場主義、競争原理を利用しながら、実に計画的に巧妙な戦略で世界支配を狙っていることを考えると、各国政府も企業も方向転換が必要です。

 同時に安全保障を含め、国益を守るという観点からすると、無秩序なグローバル化、覇権主義ウイルスの侵入を許したグローバル化のリセットをポストコロナの重要課題と位置付ける必要があることは否定できないでしょう。

 5Gを制する国が、数年後に利益と人材面でテクノロジー業界をリードするという認識のもとに、戦略として5G制覇に必死になる中国に対しての闘いは始まったばかりです。ビジネスもテクノロジーも国境を超えるのは容易なために傲慢になりがちですが、実は国の政策がビジネスに与える影響が非常に大きいということです。

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