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 アフリカのルワンダ訪問中のフランスのマクロン大統領は27日、約80万人が死亡したとされる1994年のルワンダ大虐殺について「フランスが大虐殺を行った体制側にあったこと認め、謙虚に私たちの責任を認める」と表明しました。明確な謝罪ではないものの責任を一端を認め、虐殺の生存者に事実上許しを請うたことは、現地で好感を持って受け止められました。

 一方、ドイツ政府は28日、20世紀初頭に当時の植民地だったアフリカのナミビアで犯した虐殺について、同国に対して正式に謝罪し、11億ユーロ(約1500億円)の復興・開発支援金を拠出すると表明しました。マース独外相は、当時のドイツの行為を正式に「ジェノサイド(集団虐殺)」と認めると表明し、ナミビアと犠牲者に許しを請う」と謝罪しました。

 フランスは賠償という形はありませんが、今後、ルワンダとの関係の正常化に踏み出す中で経済協力を約束し、ドイツは支援金を法的責任ではなく道義的責任においてナビミアに支払われるとしています。ただ、支援金の行方についてナミビアでは疑問視する声もあるのも事実です。

 フランスの場合は、27年前の出来事であり、映画にもなった残虐極まりない虐殺事件で、今回のマクロン大統領の訪問時の家族を全て虐殺された生存者のインタビューで、「仏軍に助けを請うたのに、彼らは傍観するだけだった」と証言しています。

 ルワンダ政府が調査委託を受けた米国の法律事務所は今月19日までに、当時のフランス政府の「重大な責任」を認定する報告書をまとめ、フランス政府も独自に調査を行っていました。両報告書の違いは、最悪の事態を米報告書は「予見できた」とし、フランスの報告者は「予見できなかった」とした点ですが、フランスの責任は双方とも認めています。

 ちなみにベトナム戦争以来、初めて仏大統領としてベトナムを訪問したミッテラン氏は、ベトナムを戦争の修羅場に追い込んだフランスの責任について謝罪はなく、「それをやったのは私の政権ではない」と記者の質問に答えたこともあります。

 ドイツも場合は、第2次世界大戦でのナチスによるユダヤ人のジェノサイトに対して、謝罪と賠償を繰り返してきた経緯があり、今回はユダヤ人以外として、法的責任は排除しながらも、初めて謝罪を行った形です。当時、ナミビアの抵抗勢力で蜂起したヘレロ、ナマクアの両民族数万人を独軍が殺害した事件ですが、ナマクアの代表は支援金は政府ではなく、われわれが受け取るべきと主張しています。

 一連のジェノサイトに対する事実認定や許しを請う仏独の動きは、何を意味するのでしょうか。一つはヨーロッパにとって、アフリカは地政学的に重要さを増す地域だからです。地中海に面した南欧諸国は、未だにアフリカからの不法移民に悩まされ、最近ではモロッコのスペインの飛び地セウタに大量の移民が押し寄せ、死者も出ています。

 一方でアフリカは世界で最後の経済発展が見込まれる地域といわれ、アフリカへの投資はヨーロッパ諸国にとって重要です。その足かせとなるのが植民地時代から引きずる悲劇で、敵対感情が消えない限り、経済協力は難しい現状があります。

 無論、アフリカが経済発展すれば、貧困を嫌ってヨーロッパに移民が押し寄せることはなくなります。資源の宝庫でもあるアフリカとの良好な関係を構築することは経済面だけでなく、中国が一帯一路戦略で食指を伸ばしている中、ヨーロッパ外交にもアフリカは重要な意味を持っています。

 それだけではなく、数年前からアメリカで始まったブラック・ライブズ・マターの黒人差別への抗議運動に象徴される奴隷商人の英雄像を破壊する運動がヨーロッパにも広がり、過去の差別や虐殺に国際的批判が高まっている事情もあります。

 対アフリカ政策で新しい一歩を踏み出すには、政治的関係の修復は必須です。その意味でも国民の心に残る傷を少しでも癒す行為は避けては通れないことです。私自身もアフリカとフランスの関係修復に微力ながら関わった過去がありますが、驚くべきはアフリカ人の未来志向です。

 ヨーロッパに対する強い不信感はあっても、彼らはいつまでも怨念を振り回し、過去を持ち出すことはしていないのが印象的でした。植民地時代の清算は実はヨーロッパにとっては始まったばかりです。教鞭をとっていたフランスのビジネススクールの学生が「学校で植民地時代の誤りについて授業で教えることはない」といっていたのが印象的でした。

 忌まわしい過去を現代の価値観で裁くことは困難だし、その時の状況として仕方ない側面もあるわけですが、歴史的見解を示し、謝罪することも重要でしょう。まだ、入り口に差し掛かったに過ぎないヨーロッパ帝国主義時代から引きずる問題への取り組みですが、新たな一歩を踏み出していることは確かだといえそうです。

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