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 英国は国民保健サービス(NHS)アプリにより、通称、ワクチンパスポートが17日から有効となることが発表されました。一方、欧州連合(EU)でも6月末までにワクチンパスポートに相当するデジタルグリーン証明書の発行準備を急いでいます。ここで注目なのは総合医療医(掛かりつけ医=GP)の存在です。

 英国ではNHSアプリでワクチン接種の有無を証明するためには、当初、GPの持つ医療記録と連携することが必要とされていたのが、それではワクチンパスポートとして旅行中などに使用するのに医療記録の個人情報も丸見えになるので、GPの記録共有部分は隠せることになったと当局は説明しています。

 一方、ワクチン接種でも、いつでもどこでも誰でも接種できる方向で接種が進んでいますが、当初、副反応を回避するためにGPの診断書が必要ということで、今でも慎重を期す国ではGP診断書なしにワクチン接種できない国もあります。GPがその当人の健康状態を熟知しているので安全な接種ができるという考え方です。

 実は、日本には現在もGP制度は存在していません。個人的に日本と欧州の両方の生活を経験してきた私にとって、GP制度が役に立つ場合とそうでない場合があることは認めます。自分の掛かりつけ医がいることは安心感に繋がり、専門医と違い総合的判断を下してくれるメリットがあります。

 自分の健康状態を長年診ているGPが、プライマリケアを担当し、必要に応じて次の段階の医療を受けることを判断するのは理にかなっているといえます。今回のワクチン接種ではGPの存在は非常に大きく、接種の効率化にも繋がっています。しかし裏を返せばGPが重要な点を見落とせば最悪の結果にも繋がる可能性があるということです。

 では、GP制度のない日本ではどうかというと、自分で何度も医者を変えることができ、専門的治療を受けるのも、直接、専門医のところに行くことができることです。選択の自由があることで、より良い医療を受けるのは自分次第でセカンドオピニオンを得る行為も盛んに行われています。場合によっては風邪程度の症状で、いきなり大学病院に行く人もいます。

 しかし、GPが制度化していないために、今回のワクチン接種で地元の主治医から受けてくれといわれ、2か月に1回程度通院していたクリニックに問い合わせたら、掛かりつけ医とはいえないとの理由で断られる事態も報告されています。そもそも医者の方も掛かりつけ医という認識がない場合が多いのが実態です。

 日本は医療先進国といわれている一方、今回のコロナ対応では医療ひっ迫が発生する率が感染者の人口比からいって、先進国の中で高いという事実もあります。それは私立病院が国の方針に要請レベルでしか従う必要がない法律で守られていることとも関係しているといわれています。

 コロナ対応だけでなく、ワクチン接種でも接種そのものを行っていないクリニックが存在し、医者の言い分としては経済的に無理という医者もいるといわれています。引退した医師や免許を持ちながら医療に携わっていない看護師もデータ化されていないために、ワクチンの打ち手でトラブルが生じていることが報じられています。

 こうなると、医師や看護師のデータ化が進んでいるフランスなどで、動員が迅速に行われたことを考えると、医療先進国とはいえない側面が露呈したといわざるを得ません。多分、日本に圧倒的に欠けているのは、非常時、有事対応が想定されていないということでしょう。

 非常時の公衆衛生の管理に私権への執着は不適切なのに、観念的に有事を嫌い、有事対応を考えたくない非現実的な理想主義が日本には蔓延し、逆に最大の私権である生命を危険に晒しているという矛盾を抱えているように見えます。まさに平和ボケです。

 私自身はGPの限界もよく理解しているつもりです。たとえばGPが患者を差別するという日本では見られない現象もあります。労働者階級の人々と知的上級階級に属する患者で扱いが露骨に異なるケースもあるからです。相手が労働者階級だと検査に延々と時間が掛かり、あくまで治療回復に努めるという公正感がないこともあります。

 英国ではNHSの医療は無料なので、さらに医者や病院を選ぶ権利は制限されています。だから富裕層は医療保険の適応もない代わりに高度な治療を迅速に受けられる私立病院に行くケースもあり、生きるも死ぬも金次第というわけです。

 それはともかく、コロナ禍で浮上した総合医療医制度について有事対応も想定しながら、選択の自由、医療の公正さも含め、何らかの進化を遂げるための議論が日本で必要だと思います。