24551541
  仏アヴィニョン、麻薬対策作戦中に警官が殺害される(CLEMENT MAHOUDEAU / AFP)

 フランス南部アヴィニヨン市街で9日、同地区で5日に麻薬密売人に殺害された警官の追悼集会が行われ、警察関係者だけでなく一般市民を含め約5,000人が集まりました。5月19日には首都パリでも治安対策強化を訴えて「市民の行進」が予定されています。

 殺害された警察官のエリック・マッソンさん(36)は、麻薬取引で知られるアヴィニヨンの旧市街地に密売人が集まっている情報を得て出動し、現場で密売グループに尋問している最中に、密売人の1人がマッソンさんに向かって数発の銃弾を発射し、マッソンさんは死亡しました。

 逃走した容疑者と協力者5人が10日までに逮捕されましたが、公共TVフランス2はニュース番組で「フランスの治安は悪くなる一方」「犯罪者は警察を恐れなくなった」「国家の権威が落ちてしまっている」との危機感を露わにするアヴィニヨン市民の声を紹介しています。

 コロナ禍でこの1年以上の間、何度となく外出禁止措置が出され、路上での麻薬密売人の活動も制限されていました。しかし、今は日中の外出で自宅から10キロという制限もなくなり、外出が自由になったことで、彼らも活動を本格化させているといいます。

 警察の方もコロナ禍の規制を市民が守っているか監視巡回することに追われ、麻薬捜査は手薄になっていましたが、今年4月初めに復活祭に向けフランス南部モンペリエでテロを計画していた家族が摘発され、パリ北郊外セーヌ=サン=ドニ県パンタンで13日午後1時半頃、銃撃事件が発生しています。

 さらにパリ西郊外イヴリーヌ県ランブイエで4月23日、同市警察署の敷地内で女性職員がナイフで刺され、殺害される事件が発生しました。コロナ禍で封印されていた犯罪者の活動が活発化する中、今回の警官射殺事件も起きたわけですが、ポイントは犯罪者が警察を怖がらなくなったということです。

 そのため警察官の権限強化が求められており、来春の次期大統領選に向け、徹底した治安対策強化を主張する極右・国民連合のマリーヌ・ルペン党首への期待感が高まっています。つまり、警官を怖がらないのは国家権力が失墜している証拠というわけです。

 そのフランスと逆の例がブラジルのリオデジャネイロで起きました。事件は図らずもフランスの事件の翌日に起き、リオ市北部のファヴェーラ(貧民街)で銃撃戦が発生し、警察官1人を含む計25人が死亡した。警察による麻薬密売の取り締まり作戦中だったと現地メディアが報じました。リオの麻薬摘発の銃撃戦の犠牲者数は過去最多です。

 死者のうちの24人は容疑者で、最初の段階で警官一人が撃たれて殺されたことで、捜査が「復讐」に変わったのではと指摘するメディアもあり、警察の行きすぎた取り締まりが問題になっています。実は背景に2020年6月にブラジルの最高裁がコロナのパンデミックを理由に、ファヴェーラでの捜査を「例外的なものでない限り」禁止にしていた事情もあります。

 ファヴェーラは犯罪組織のルクルート場所で、世界中どこでも貧困地区は犯罪組織がメンバー獲得の拠点にしており、その摘発が今回の主目的だったそうです。メディアの批判に対してリオ市警のロドリゴ・オリヴェイラ署長は「警察官が殺されたため、体制を脅かすものだと判断した」とし、銃撃戦に伴う多数の死者発生という結果を擁護しています。

 フランスの場合は人権重視で警官の行動規範は厳しく、簡単に犯罪者に銃口を向けられない現実があり、せいぜい治安強化の抗議の追悼デモを行う程度ですが、ポピュリストが政権を握るブラジルでは体制を脅かしたら皆殺しだという極端に異なった反応です。

 そのため、極右を警戒するフランス左派は、今回の事件で警察権力の強化が進むことを警戒し「ブラジルのような国になりたいのか」という指摘がSNS上に上がっています。しかし、凶悪犯罪がはびこり、治安が悪化する中、警察が強権発動する以外ほかに方法はないとの考えも強まっています。

 警察は権力の象徴で、警察が馬鹿にされれば国家統治も脅かされるのは、世界中どこも同じです。トランプ前米大統領は、国内の黒人の暴動に対して「Law & Order」を強調しましたが、コロナ後の治安悪化が懸念される中、警察権限については議論が高まりそうです。