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  ルーマニアのドラキュラで知られるブラン城

 新型コロナウイルスのワクチン接種率には、国や地域で文化や国民性も影響しているようです。接種希望者が50%を下回るルーマニアでは、ドラキュラで世界的に知られるブラン城を訪れた観光客に対して、城の中にワクチン接種センターを設け、観光ついでにワクチン接種して帰りませんかと呼びかけています。

 吸血鬼とワクチン接種の取り合わせは、なんとも不気味ですが、血を吸われるのではなく、ワクチンを接種してくれるということで、意外と接種して帰る人も多いと英BBCは報じています。城内に控えている医師と看護師は、城の観光ツアーを始める前に、希望する訪問者に接種を行っているそうです。

 保健当局は、人気の高い観光スポット、ブラン城を接種会場に選び、今年5月の週末から接種希望者は事前予約を必要とせずに接種できるようにしたそうです。ブラン城は国土のほぼ中央に位置するルーマニア第2の都市、ブラショフから路線バスで1時間弱のところに位置し、1897年の吸血鬼ドラキュラを書いたアイルランドの作家、ブラム・ストーカーが物語の着想を得た城です。

 実はドラキュラのモデルとなった15世紀にブラン城に居城したヴラド・ツェペシュは、今では歴史的地名トランシルヴァニアをオスマン帝国から実際に守っていた城主で、かなり残酷なことでも知られています。しかし、城には吸血鬼に類する記録や伝説、伝承は皆無で地元にも吸血鬼伝説はありません。

 観光収入が経済に占める割合が多いヨーロッパでは、たとえばイタリアのヴェローナにはシェークスピアの「ロミオとジュリエット」の「ジュリエッタの家」があります。物語に出てくるジュリエットのモデルになった人物の居住地ではありますが、今ある、物語に登場するバルコニーは後設されたものです。

 今では世界中から縁結びの観光スポットとして大勢の観光客が押し寄せていますが、本当はシェークスピアのイマジネーションであって、実在した人物の人生とは関係ありません。ヨーロッパには観光客集めのために勝手に作られた建物がたくさんあります。

 ドラキュラ城もその一つで、実際の城はまったく不気味ではなく、かわいらしい城ですが、観光名所にするために城内は、わざと不気味な雰囲気に演出されています。そして今度は、医者や看護師が控えるワクチン接種推進センターになっています。

 ヨーロッパ人、特に旧中・東欧の人々は不信感が強いことで有名です。あまりにも殺戮と闘争の歴史が長く、誰も信じない国民性からワクチンも信用していないのは事実です。これは科学を信じる教育された人々も同じで、「政府に騙されている」「製薬会社が儲けるためにウイルスをバラまいた」という陰謀説もSNS上で拡散しています。

 城に迷い込めば血を吸われるというドラキュラ伝説を持つ城でワクチン接種するのは不気味ですが、ルーマニア人はドラキュラ伝説をほとんど信じていないといわれます。

 人口1900万人のルーマニアでは約360万人が、これまでに少なくとも1回のワクチン接種を受けており、当局は6月までに500万人の接種を終える目標を立てています。そのため、観光名所、ワクチン接種ドライブスルーなどを設け、あの手この手で接種を進めようとしており、ドラキュラもかりだされた形です。