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 グローバルビジネスに必要なスキルの一つに「柔軟性」です。「原則論を異文化で先行させれば失敗する」の裏返しです。この柔軟性がコロナ禍からの再起(レジリエンス)で鍵を握りそうです。今、世界の製造業に深刻な影響を与えている半導体不足から新型コロナウイルスのワクチン調達まで、柔軟な対応なしには乗り切れない状況です。

 ワクチン担当の河野行革相は、地方に供給した使用期限が限られたワクチンが、接種対象者を確保できずに無駄になっている状況が発生した時、隣町や他県に提供するなど「柔軟に対応してほしい」と苦言を呈しました。縦割り行政の悪習をなくすのが目的の行革相らしい発言ともいえます。

 実はフランスでもワクチン接種が始まった昨年12月末当初、場所によってはワクチンが余る現象が起き、政府が対応に乗り出す事態がありました。しかし、そこは現場への権限委譲が進んでいるフランスでは、現場担当者が使用期日までに接種できる人を探し、それは他の自治体にまで及びました。

 薬局での接種が可能なフランスでは、接種対象者リストにある人が接種を見送ったり、来なかったりした場合、薬局が政府が決める対象範囲を無視して、対象者を拡大し、「今はワクチンが余っているので打ちませんか」と電話したりしています。それでもいない場合は他の町の薬局と連絡を取り合ったりしています。

 ヴェラン仏保健省も「ワクチンを無駄にしないよう柔軟に対応してほしい」と述べており、私の義妹は対象年齢に入っていなかったのに、接種会場から電話があり、「今日中に来れるのであれば接種可能ですが」といわれ、会場に飛んで行って接種し「ラッキーだった」と喜んでいます。

 欧州連合(EU)は、英アストラゼネカに対して、EU供給分が供給されていないとして同社を相手取った訴訟に踏み切りました。1月に発覚したEU域内で製造された同社ワクチンが英国優先で供給されていることを問題視し、3か月以上は交渉解決を優先していたのが我慢の限界に達したというわけです。

 日本があてにしているファイザー製ワクチンもEUで製造されたものを輸入しており、供給に対する厳しい監視と交渉を続けなければ、納期納品は守られないリスクを抱えています。菅首相はバイデン米大統領との公式会談の後、ファイザー社のCEOに発注の念押しをしたのも不安がぬぐえないからです。

 一方、世界的半導体不足が自動車業界だけでなく、スマホなどの通信機器から医療機器まで広範囲の製造に影響を与えている問題も深刻です。ワクチンの接種が世界的に進む中、米国を中心にグローバルビジネスは今後加速が予想されています。

 その中で深刻な懸念材料の1つが「需要の増大にサプライチェーンがはたして対応できるのか」という点です。実際、2020年はコロナ禍でサプライチェーンが大混乱を起こし、物資不足への懸念が高まり、今も問題は解決していません。特に半導体不足はハイテク製品の鍵を握っているだけに深刻です。

 半導体不足を受けて、世界最大の半導体メーカー、台湾のTSMCは、2021年の設備投資予算を280億ドルまで増額しています。しかし、新しい半導体生産施設を稼働させるには最低5年を要すると言われています。トランプ前政権でファーウエイなど中国大手通信機器メーカーへの米製半導体供給を止めたことへの中国の逆襲も懸念されます。

 半導体不足を引き起こした原因の一つは、昨年春の新型コロナウイルス感染症急拡大で、自動車の売上げが落ち込み、自動車メーカーは減産のため、今や自動車に欠かせない半導体の発注が激減しました。その半導体が消費家電や通信機器などに回され、自動車メーカーが増産に切り替えた2020年第3四半期には、十分な半導体を確保できなくなったことが指摘されています。

 トランプ前政権が対中国企業締め付け政策を行ったことで、中国企業は半導体の備蓄を増やしたされており、ストックに場所を取らない半導体が中国企業にため込まれたという指摘もあります。逆に中国企業は米国への対抗措置として米国企業に半導体の供給をしないリストを作成していると言われています。

 その他、2020年7月には、日本の半導体製造工場の火災により、プリント配線基板に用いられる特殊なグラスファイバーの供給が停止したことや、世界規模の貨物の輸送能力の低下も影響を与えています。バイデン政権は重要な物資に関してサプライチェーンの再構築を指示しています。

 コロナ禍からのレジリエンスには、不透明な状況を乗り切るリスクマネジメントと、大胆なチャレンジ精神が必要です。そこで重要になるのが柔軟性です。A案、B案、C案といくつもの戦略を準備し、状況に応じてしなやかに対応する必要があります。

 手段が目的になりやすい日本では、方法や原則論にこだわりすぎて柔軟性が掛けている弱点があるといわれます。その意味ではネクスト・コロナのレジリエンスは新たな挑戦といえそうです。

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