Prince Philip and Queen s

 英国史上最長の在位期間を更新するエリザベス女王(94)を支え続けた夫、フィリップ殿下(99)の葬儀が、ロンドン郊外ウィンザー城の聖ジョージ礼拝堂でいとなまれました。エリザベス女王が他の親族から離れ、ポツンと1人でマスクをして座っている姿が多くの人々の心を打ったと思われます。

 様々なロイヤルファミリーの試練を乗り越えてきた女王も立派ですが、その女王を黙々と支え、英王室の伝統を守り抜くことに貢献したフィリップ殿下に陰口を叩く英国民はほとんどいないといわれます。無論、フィリップ殿下の女王からいつも3歩下がって歩き、自分の使命に徹した生き方は「今風」ではないかもしれません。

 すぐに脳裏を走ったのは、3年以上前の話ですが、デンマーク女王マルグレーテ2世の夫で、2018年2月に他界したヘンリック殿下のことでした。生前、同殿下は、死後は女王と並んだ墓に埋葬しないでほしいとの意向を示したことが話題になりました。

 フランス出身のヘンリック殿下は、女王を補佐する格下の立場にあることにかねて不満を口にし、結婚後、生涯、女王の夫としての称号を受け取らず、妻である女王と対等の待遇を受けていないのだから、死後も対等に扱われたくはないと述べたという話です。

 ヘンリック殿下は1934年6月11日、南仏ボルドー近郊のタランスに生まれ。出生名はアンリ・マリー・ジャン・アンドレ・ド・ラボルド・ド・モンペザで、まさに貴族の家系です。フランスは大革命で王政を廃止した国ですが、今でも貴族の血を引く人間はいて、私の友人にも貴族の血を引く活躍しているフランス人もいます。

 ヘンリック殿下は結婚前は外交官で結婚に際しデンマーク風のヘンリックに名前を変更し、カトリックからプロテスタントに改宗し、生涯デンマークを愛したことで知られています。今も存命中の女王マルグレーテ2世も、夫が墓を違う場所にしてほしいという要求を受け入れていたそうです。妻と同等の地位を要求したあたり、フランス人らしいといえます。

 ギリシャの貴族出身のフィリップ殿下は、軍の学校しか出ていないことを理由に英国王室に反対される中、エリザベス女王の強い意向もあって結婚した経緯があります。日本的、あるいは仏教的にいえば、「分をわきまえた」人生でした。長身で女王より年上の殿下は自分の使命を全うすることに専念した人物として知られています。

 個人主義の国、英国のロイヤルファミリーには、メンバーの色恋沙汰のスキャンダルが絶えず、離婚、結婚、不倫話が常に大衆紙を賑わしています。最近ではヘンリー王子が結婚した黒人の血を引くメーガン妃が、王室内の人種差別を批判し、世界の衆目を集めました。

 過去にはチャールズ皇太子と離婚したダイアナ元妃が、交際相手とパリで過ごしている時に交通事故死した問題で、反応に窮したことで国民から批判を受けたエリザベス女王が、王室の危機に立たされたこともあります。当時を映画化した「クイーン」では、フィリップ殿下もダイアナに批判的に描かれています。

 しかし、二人の観点は英国国教会に流れる伝統的価値観からのものです。今はLDBT批判はタブー視されていますが、映画の中でダイアナの葬儀に際して歌手のエルトン・ジョンが参列する話を聞いて「あのホモ野郎も来るのか」とフィリップ殿下がいい捨てる場面がありました。

 無論、女王夫妻は古い世代で同性愛者がタブーの時代に育った世代なので仕方がないという人もいるでしょうが、実は男尊女卑が当たり前の時代に女王の夫を引き受け、生涯自分の使命を徹底して貫いたというのも当時の時代的状況からは異例でした。ただその根底に二人が深い愛を育んできたことがあります。本当の愛には上下がないからです。

 英王室の男たちがフィリップ殿下の他界で、品行が良くなるかは疑問ですが、国民の間で高く評価され続けることは確かなようです。エリザベス女王はフィリップ殿下を見つけたことで、英王室に延命の機会を与えたといっても過言ではないかもしれません。

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