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 今年1月、世界で最も権威あるレストランガイド、ミシュラン(Guide Rouge)が1月に発表されました。今年新しく3ツ星を獲得したのは1軒で、南仏マルセイユのアレクサンドル・マッジア・シェフの運営するレストラン”AM”でした。

 「え、コロナ禍でどうやって査定したのか?」と驚く声もあり、「こんな時期なのだから、ミシュランも慎んだらどうなのか」という意見もありました。昨年、フランスはコロナ禍で2度のロックダウン(都市封鎖)を経験し、夜間外出禁止令も出され、レストランは半年間は休業、残りの半年間はコロナ感染予防対策を強いられたことは事実です。

 ミシュランガイドのダイレクター、グゥエンダル・プレネック氏は「夏の規制が解除された時期に調査員はヴァカンスを返上した調査した」とフランス人らしい説明をしていました。

 当然ながら、限られた期間に規制で制限された状態で査定が行われたことに対しては疑問の声も上がっていますが、そんな環境下でも1流の質の高い料理を提供する姿勢は、ストレステストのようなものだったのかもしれません。ミシュラン側は「こんな環境だからこそ、レストランにエールを送りたい」といっています。

 無論、ミシュランガイドに掲載される星のついたレストランに行くのは、フランスでもごく限られた富裕層です。社会に階層性が残るフランスでは、仮に中流階級の人がミシュランの星のついたレストランに行ったら、それは後日、友人との間で大きな話題になる話です。

 では、食通といわれるフランス人は昨年1年間、どんな食生活を送っていたのかというと、興味深いのは昨年夏のヴァカンス時期です。気軽の外食が全くできなくなったロックダウンが解除され、初めて迎えたヴァカンスで、外食に過去最高ともいわれるお金を使ったことが報告されています。

 「とにかく、外食にお金を使っていなかったから、いわば断食状態だった」「いつもよりランクの上のワインを頼んだり、贅沢なデザートを頼んだ」というフランス人は非常に多かったとされています。

 私の周辺の親族や友人も、ヴァカンスで国外に行くのを断念したため、逆に近場のノルマンディーやブルターニュ、南西部の海岸を巡ったりして、レストランで食事を楽しみました。そんな例は圧倒的に多かったのも事実です。きっとミシュランガイドの調査員も込んでいるレストランで査定を強いられたはずです。

 はっきりしていることは、フランス人にはゴーツートラベルも、ゴーツーイート・キャンペーンも必要なかったということです。美味しいものを食べたくて家でウズウズしていたため、堰を切ったようにヴァカンス先で美食にお金を投じたわけです。

 巣ごもり状態を強いられた昨年、スーパーは売り上げを伸ばし、キャルフールなど大手スーパーは採用を増やしました。テレワークで勤務時間が曖昧化する中、せめて家で美味しいものを食べたいというフランス人は多く、スーパーで高級食材も結構売れたそうです。

 それも加工食品よりも、ゼロから自然食材を使い、調理に長い時間をかけるフランス人も増えたといわれています。もともと加工食品が嫌いなフランス人ですが、最近は忙しさの中で調理の簡単なレトルト食品の需要も広がっています。しかし、やはり週末に美味しいものを食べたいという思いは変わっていません。通販で高級食材を取り寄せることも可能になり、利用者も増えています。

 とはいえ、仮に今年、ワクチン接種でコロナ感染が収束し、自由に外食ができるようになれば、友人たちとレストランに繰り出し、いつもより高い料理を楽しむだろうことは想像に難くありません。

 ミシュランガイドは「この店で食事ができる幸運な人は、唯一無二の味覚の冒険に連れて行かれる」と、フランス人の食への熱い思いに火をつけています。今年は、ぜひ星を持つレストランで食事をしようと待ち構えるフランス人は少なくないかもしれません。

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