EU corruptionのコピー

 EU統計局(ユーロスタット)が発表した2020年10-12月期のユーロ圏GDPは、前期比0.7%減となり、通年では6.8%縮小しました。この数字は明らかに米中経済に対して、経済回復の見通しが依然暗いことを意味しています。ワクチン接種の遅れを主要因とする見方もありますが、果たしてそうなのでしょうか。

 アメリカは10-12月期の力強い回復が見られ、通年では3.5%減にとどまり上向いており、コロナ禍を早々と抑え込んだ中国は、通年で約2.3%のプラス成長を確保しました。人口100万人に占めるワクチン接種率は、米国は9%、英国は14%に比べ、欧州連合(EU)域内では、スペイン、イタリアが3.4%、ドイツ3%、フランス2.3%(アワ・ワールド・イン・データ参照)です。

 しかし、中国はワクチン接種だけ見れば、人口が14億人としても1.7%と低いにも関わらず、感染を抑え込み、景気が急速に回復しているのを見ると、ワクチン接種率と景気動向が単純に比例しているとはいえません。無論、中国の場合は明らかになっている数字もあてにはなりませんが。

 欧州は今、感染力の強い英国初の変異種の拡大に悩まされています。各加盟国は感染抑制のために世界的に見ても厳しい措置を取っていますが、実際に感染を抑え込むには数週間から数か月かかるかもしれません。経済の専門家の多くは、ユーロ圏が今後数カ月で再びリセッション(景気後退)入ると予想しています。

 これには今の感染拡大だけでなく、昨年、夏までに痛手を受けた企業の具体的な大幅な収益ダウンは、これから本格化することも含まれています。結果的にはEUは「景気回復では主要先進国では最後になるだろう」との予想が圧倒的です。

 では、アメリカ以上に厳しいコロナ対策の措置を取り、ロックダウンや夜間外出禁止令を出してきた欧州は、感染拡大も収まらず、ワクチン接種も遅れ、経済回復も遅れている理由は何なのか。最近ではハンガリーがロシア・ワクチンの受け入れを表明し、スペインも拒まないとして、EUのワクチン政策に背く国が出ています。

 コロナ禍で追い詰められた加盟国の中には、EUは頼りにならないという風潮が高まっています。イタリアは中国ワクチン受け入れに動く可能性もあります。つまり、EUの求心力はコロナ禍で落ちていることが表面化しているわけです。

 そもそもイタリアで顕著な感染拡大が認められた1年前、隣国フランスが国境を封鎖するかどうか迷っている時に、イタリア人ジャーナリストが「ウイルスは雲のようなもので国境など簡単に超えていく」と指摘しました。

 1年前、もしEUとして域外からのアクセスを完全に封じていたら、最初の1波は抑え込めていたはずです。人と物の移動の自由を基本政策に置くEUは、これまでもテロリストの流入で国境管理の復活が何度も指摘されていました。イスラム聖戦思想に似たコロナウイルスは、域内に入れば自由に拡散できるわけで、少なくとも域外からのアクセスを止めるべきでした。

 ところが今に至るまで、欧州委員会は加盟各国に対策を委ね、EU全体としてのコロナ対策は、せいぜい復興基金を決めた程度です。フォンデアライエン委員長は感染症の専門医だったにも関わらず、域外からの流入を止めず、感染症対策のEUの枠組みは整っていません。そのため、EU市民は感染症対策でEUは役に立っていないと感じています。

 そんな中、フランスで来年春に予定される大統領選挙で、2017年の大統領選でマクロン現大統領と決選投票で戦った極右政党・国民連合(RN)のマリーヌ・ルペン党首(52)への期待が高まっています。新型コロナウイルス対策で苦戦を強いられ、景気回復も思わしくなく支持率が低迷するマクロン氏に対する不満の受け皿となっていると指摘されています。

 1月27日付の仏紙パリジャンが明らかにしたハリス・インタラクティブの世論調査結果では、再選に意欲を見せているといわれるマクロン大統領と、必ず出馬すると見られるルペン氏が前回と同じように決選投票に進んだ場合、ルペン氏に投票すると回答した人は48%と、マクロン氏の52%に僅差で迫っていると報じられました。

 ルペン氏は1日、フランス政府が打ち出した新型コロナウイルス感染防止のための国境封鎖措置について、マクロン氏が国境を閉鎖する決断を下さなかったために「無駄な時間が経った」と非難し、「私は当初から国境閉鎖が最も効果的と主張してきた」としました。

 同発言は、パリジャン氏の衝撃的な世論調査結果が出た数日後に飛び出し、衝撃を与えました。マクロン政権のボーヌ欧州問題担当相は今月1日、「ウイルスにはパスポートがなく、国境封鎖が奇跡の治療法であるかのようには言えない」「魔法の杖とは思っていない」と反論しました。

 フランスではマクロン政権のコロナ対策への支持率は40%を切っています。特に若者の政府批判は酷いものがあります。フォンデアライエン委員長の手腕を疑う声もあります。この政治不信、反EUの動きは、欧州経済回復の足かせになるのは必至です。

 今後、EU内では、ブレグジットがプロセスにある時は大人しくしていた反EUのポピュリズム運動が再び勢いを増すと見られます。ルペン氏はその先頭を走っているともいえます。EUは、大規模な雇用維持制度のおかげで短期的に大量失業を防げていますが、このまま厳しいコロナ対策が続けば制度を支える資金が尽きてくる可能性もあります。

 英国離脱後のEUをけん引する仏独が頃た対策、経済政策でEUの立て直しに本腰を入れなければ、EUの弱体化を止めるのは困難な状況です。そこにロシアや中国の手が迫っているのが懸念材料です。

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