Pfizer-BioNTech_COVID-19_vaccine
 
「人も国も自分の安全が脅かされれば、自己保身に走るのは仕方がないことなのか」と、昨年春に、ヨーロッパで新型コロナウイルスの猛威に襲われた時に思いました。あれだけいつも加盟国間の協調を重視してきた欧州連合(EU)は、公衆衛生上の問題に直面すると、隣国も目に入らない状況に変わりました。

 新しく欧州委員会の委員長に就任したフォンデアライアン氏は公衆衛生が専門の医師でした。にもかかわらず、EUとして次々に対策を打ち出すこともなく、コロナ復興基金と中期予算の計約1兆8000億ユーロ(約230兆円)で加盟国が合意したのは12月に入ってからでした。

 EUと一口に言っても経済格差も医療体制も大きく異なります。それにイタリアで感染拡大が始まった頃、フランスが国境で厳しい検査を行ってもイタリアで感染した人がドイツやスイスに移動し、そこからフランスに入国する可能性もありました。

 さらにEU域外との間の統一した国境対策を行わず、いったん域内に感染者が入ってしまえば、人と物の移動の自由を認めたEU内での感染拡大はあっという間の出来事でした。つまり、EUとしての初動の遅れが、今のアメリカと肩を並べる深刻な感染拡大をもたらしたともいえます。

 そして今年は感染抑止の切り札であるワクチン接種が世界で本格化する中、ワクチンの争奪戦が始まっており、資金のない途上国ではワクチン入手の見通しがまったく立たない状況に陥っています。EUは必要量の3倍を注文済で、カナダに至っては5倍を確保したといっています。

 世界保健機関(WHO)のアフリカ担当者は「先進国は、ファイザーなどの製薬メーカーに直接交渉して、全体の9割のワクチン入手で合意を取り付けている」と述べています。それでも欧米先進国はワクチン供給の遅れを批判し、製薬会社に不満を表しています。

 その一方で途上国のワクチン供給はまったく先が見えていません。WHOのテドロス事務局長は「先進国がワクチンを買い占めるなら、世界に悲惨な道徳的誤りをもたらすだろう」と述べ、先進国が途上国とワクチンを分け合う約束を無視していると批判しています。

 仏公共TVフランス2の報道番組によると、現在、アフリカでワクチン接種を開始したのはインド洋のセーシェル諸島だけで、それもワクチンは中国産です。他のアフリカ諸国での接種の見通しは立っていません。アフリカは南アフリカを除き、昨年の感染第1波は深刻ではなかったわけですが、現在はアフリカ全土で感染が広がっています。

 医療体制も脆弱なため、重症患者が増えれば、すぐに医療崩壊を起こす状況で、すでにセネガルでは病院の受け入れができなくなっているとフランス2は報じています。WHOによればアフリカの20か国で世界平均以上の速度で感染が拡大していると指摘しています。

 中国の債務漬け状態のエチオピア出身のテドロス事務局長は1年前、中国を過信し、緊急事態を世界に警告することが遅れ、批判を浴びた人物ですが、同氏は今回「ワクチンをめぐるナショナリズムは皆にとって不幸で非生産的だ」と先進国のワクチン争奪戦を批判しています。

 アフリカなどの途上国については、新型コロナワクチンを世界各国で共同購入して分配する国際的枠組み「COVAX(コバックス)」があり、約20億回分のワクチンを購入する合意がされているにも関わらず、そのメカニズムは機能していないとフランス2は指摘しています。

< EU欧州委員会は「アフリカを無視してワクチンを注文したわけではない。コバックスが機能する方法が見つかっていないだけだ」といいわけしています。アフリカの感染者数は300万人を超えており、感染力が極めて強い南アフリカで発生した変異種の急拡大が懸念されています。

 専門家は「アフリカ大陸に新型コロナウイルスの感染阻止に充分なワクチンを供給するためには90億ドル前後の資金が必要だが、今のところワクチン争奪戦にアフリカが加わる資金力はない」といっています。このまま先進国がアフリカを見捨てれば、貧しい国々は中国のワクチン外交の餌食になるのは明白です。

 公衆衛生上の危機に直面すると極端に内向きになるのは仕方ないことかもしれませんが、途上国の感染拡大抑止は、結果的には先進国にも波及するリスクがあると同時に、人道問題として深刻に受け止めるべきことでしょう。

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