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 欧米の主要メディアは昨年末、中国、ロシア、イラン、北朝鮮など権威主義の強権政治を行う国が、ますます体制を強化し、自由と民主主義を掲げる国々の脅威となると指摘しています。米ウォールストリートジャーナル(WSJ)は中国は愛国教育を強化しており、ロシアはプーチンの強権支配は揺るがないと書きました。

 トランプ政権が、この4年間、米中貿易戦争を精鋭化させたため、中国覇権主義の脅威については欧州も重い腰を上げ、中国マネーに警戒感を強めています。欧州連合(EU)は7年越しの中国との投資協定を年末に駆け込みで締結させる一方、ファーウエイなど中国ハイテク企業の排除も変えていません。

 新型コロナウイルスの感染拡大でダメージを受ける欧州経済にとって、中国は無視できない存在で本音では喉から手が出るほど中国マネーに関心があるのは確かです。

 一方、香港やウイグル族への弾圧を強め、コロナ拡大を世に問うた中国人女性ジャーナリストに実刑判決を下するなど、EUが受け入れがたい動きの加速で、強い違和感を感じるようになりました。

 中国は今回、アメリカで政権交代が起きる前にEUとの関係強化を急いだため、アメリカからの貿易交渉で突き付けられた産業補助金の透明化や強制技術移転の禁止を受け入れることで合意しました。欧州は中国の広域経済圏構想、一帯一路のターゲットにもなっています。

 ロシアも虎視眈々と東西冷戦時代のような存在感を回復すべく動いており、プーチン大統領は国内で台頭する反プーチン勢力の抑え込みのため、陰では暗殺も辞さない強権を続けています。中国とも共同の軍事演習を行うなど不気味な動きも見せています。

 イランはトランプ政権が核合意から撤退した後、核開発を加速させており、たとえ、バイデン氏がアメリカ大統領になり、核合意に再び加わるようなことがあっても、イラン国内の欧米諸国への不信感は容易には消えないでしょう。中東での派遣も強化しています。

 北朝鮮はトランプ氏とのパイプが切れれば、危険な核武装国家として何をするか分かりません。世界のコロナ禍で外貨を稼ぐ道が途絶えているともいわれ、瀬戸際外交に戻る可能性は高いと見られています。

 そこで注目を浴びつつあるのが、大英帝国の植民地を発祥とするアングロサクソン諸国の諜報機関であるファイブアイズの存在です。英国、オーストラリア、ニュージーランド、カナダの現英連邦に加え、英国と特別な関係にあるアメリカの5か国からなるUKUSA協定グループです。

 私は実は2000年代に入り、フランスで25年以上続ける治安分析エージェントで何度もファイブアイズの存在に遭遇しました。アングロサクソン系の結束にはビジネスだけでなく、国際秩序に関する諜報活動も重要な意味を持っていることを肌で感じました。

 2018年には日本、ドイツ、フランスが中国のサイバー攻撃対策でファイブアイズと3国の連携で情報共有の新たな枠組みが作られました。昨年は日本、韓国、フランスが参加した枠組みも発足しています。つまり、自由と民主主義、法治国家の価値観を共有する国々が収集した貴重な情報を共有するようになったということです。

 これは東西冷戦終結後、新たな脅威となった独裁強権の覇権主義勢力との戦いに、過去にないデジタル情報戦に備えたものです。政治家がそんな大義名分を語っても、裏で何を考え何をしようとしているかを見抜くには絶対必要なことです。

 このファイブアイズ+は、価値観の共有なしには成り立ちません。日本、韓国以外の国は明確な価値観を共有しており、香港やウイグル族への中国政府の弾圧には明確なメッセージを出し、アメリカなどは制裁も行っています。

 フランスの国際政治学者、ザキ・ライディ氏は私にかつて「日本はわれわれ西側諸国が信じる自由と民主主義の価値観を本当に共有しているのか欧州では疑問がもたれている」といったことを思い出します。地理的問題はあるにせよ、価値観の共有を怪しまれるようではファイブアイズには加われません。

 敗戦で商人国家になり下がった日本は、価値観の問題を極力避けてビジネスに集中してきましたが、2021年は日本が価値観を明確にしなければ、日本は米中対立の仲保者などとはいっていられない状況です。信念があれば異なった価値観を持つ相手からも信頼され、相手を変えることも可能だという認識に立つべきでしょう。

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