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 ポストコロナは権威主義との闘いと見られます。中国やロシア、北朝鮮のような独裁国家の権威主義が世界に与えるマイナス面が深刻さを増しているからです。しかし、果たして民主主義国家には権威主義は存在しないのかといえば、あらゆる組織に権威主義は存在しており、その除去が急がれます。

 私の経験では、民主主義が成熟していない国ほど権威主義が酷いといえます。たとえば韓国では、上司が部下を呼ぶ時も肩書をつけることにこだわります。憧れは運転手付きの黒塗りの車に乗り、多くの人から崇められることだといいます。自分のステイタスへの固守の背景には儒教も影響しています。

 課長や部長に就任すると、必ず前任者をけなし、自分の評価を高めようとします。日本人から見れば、自分に自信がないので人を貶めて自分が上だと示す情けない態度に映ります。チームでいい結果が出れば、全部自分の成果にし、悪いことが起きれば部下のせいにするのも常です。

 このような状況では、自由に上司に対して異論をはさむことなど不可能です。人に上に立つと強引に権力を奮うのが常で、今、欧米のビジネススクールで有効とされるリーダーシップやマネジメント手法とはほど遠いものがあります。

 無論、東洋と西洋の文化の違い、国ごとにも国民性は異なるので、西洋的考えが最もいいとはいえませんが、韓国の権威主義はけっして褒められたものではありません。

 権威主義が強い国では、日頃はそれで全体が動いているのですが、時々、クーデターが起きます。たとえば、タイは国王の存在は絶対的で国民の尊敬を集め、国王を批判すれば不敬罪で逮捕される国です。ところがその権威の中身に問題が生じた場合、今起きているような王室改革を迫る抗議デモも起きます。

 権威主義の最大の欠陥は、その権力の中身がチェックできないことで、腐敗や権力の暴走を許してしまうことです。タイの新しい国王はほとんど自分の国にいず、体中にタトゥーを入れ、しばしば妻を入れ換え、莫大な浪費をして遊び回っています。貧困にあえぐ国民にも我慢の限界があるという話です。

 東洋では権威主義はしばしば権力者が恩を売る傾向があります。中国共産党政府はよく「国民は政府に感謝しなければならない」ということを強調します。国と国民が豊かになったのは誰のおかげなのかといちいち確認しています。完全上から目線です。

 実は権威主義は民主主義の先進国にも見られます。たとえば、フランスは欧米先進国で最も中央集権的な国です。最近、政府が出した包括的な治安維持法が強い反対に遭い、大規模なデモが起きましたが、そうするとマクロン大統領が政府関係閣僚を呼びつけ、叱りつけました。自分がトップのはずなのに何かうまくいかない場合、部下のせいにするわけです。

 権力が集中し、その権力者を持ち上げる文化は結果的にリーダーを駄目にするケースの方が多いといえます。その権力が大きければ大きいほど、リスクは高まるともいえます。

 ではリーダー本人や組織を劣化させる権威主義のリスクの本質は何かといえば自己中心に陥ることです。逆に言えば、利他主義に徹すれば権威主義には陥らないということです。たとえば権威主義が蔓延る組織では人は上しか見なくなり、下に関心を持たなくなります。

 酷い場合は過去の自分にどんな部下がいたのかも覚えていない人もいます。上に忖度するために意識が集中しているからです。評価されるリーダーは日本でも今も昔も変わりません。それは実績だけでなく部下を思いやる人間です。最新のアメリカのリーダーシップ理論でも部下を支援し、引き上げられる人間を理想としています。

 そんな資質を持つリーダーを育てられないとすれば、組織全体が権威主義に陥っている証拠です。部下の尊敬はリーダー自らの実力で築いていくもので、部下はリーダーを崇拝すべしというルールはリーダーを堕落させます。

 私はこのブログにも書きましたが、日産のカルロス・ゴーン元会長は、日本の御神輿経営とフランスの中央集権が彼を堕落させたと見ています。

 キリスト教文化ではない日本では、人間崇拝がすぐに始まります。個人が自立しておらず、組織の人間関係に左右される部分が非常に大きいからです。問題は中身があるかどうかです。形だけの権威主義
に陥るのはリーダーに中身がなく、それを支える部下も妄信的になることから生まれます。

 他国の権威主義を批判する前に自分の足元に蔓延する権威主義を排除する必要がありそうです。

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