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 次期アメリカ大統領と目されるバイデン前米副大統領がホワイトハウスの広報の要職を全て女性にする方針を打ち出し、話題になっています。実はトランプ現大統領も要職に女性を多数起用しており、新しい話ともいえません。今はダイバーシティは過去にない重要さを増しているといえます。

 ダイバーシティの代名詞が日本では女性起用です。なぜなら、多民族多文化国家ではなく、世界一の男性中心社会の日本では、まずは女性の起用がダイバーシティの入り口だからです。そのため、企業や組織でダイバーシティを導入する際、アドバイスする専門家も女性が多いのが現実です。

 国連⼥性の地位委員会のいつもの指摘は、日本の企業や組織のリーダーに占める女性の割合が世界的にみても非常に低いことです。この分野では中国を含むアジア諸国に比べても少なく、男性が既得権益に固守していることや、子育てを含む働き方が十分に支援されていない働き方の日本の特殊性が障害になっていると思われます。

 「男は一家の大黒柱」「家族を養うのは男、家を守るのは女」という男女の役割分担が今もなお日本人の潜在意識に強く残っているのも確かです。支配欲が本性として強い男性がリーダーに比べ、細かいことに気配りができ、人間同士の横の関係や生活の質に重点を置く女性はリーダーには向かないという考えも存在しています。

 長い歴史に培われた習慣とは恐ろしいもので、私のように封建的な九州で育った者が、フランス人と結婚すると、その違いは歴然。思い起こせば父や食卓で指一本動かさず、母に「おい、お茶」「おい、お代わり」と叫び、子供の右へ習えで同じ言葉を母に発していたのを思い出します。

 亡くなった祖母は50代の時に「私の名前は”おい”ではありません」といったほどです。高校の先輩は東京で一流企業に勤め始めた頃、「驚いたことに会議に女が座っている」と九州では考えられないことだとカルチャーショックを受けていました。

 一方、30年以上前からアメリカへの取材を繰り返してきた私は、取材で公官庁から企業まで取材して、女性がお茶を出してくれた経験は皆無です。デトロイトの商工会議所の会頭インタビューでは、会頭が話の途中で「コーヒーを飲むか」と聞かれ「イエス」と答えたら、一緒に廊下のコーヒー自動販売機に連れて行かれ、自分で買わされたこともありました。

 「女性はお茶汲み、コピー係」という時代は終わりましたが、今は自宅のリモートワークでお茶やコピー作業を要求する女性は妻以外にはいません。その妻も仕事をしているため、男性の人生は大きく変わりつつありますが、やはり大きいのは女性リーダーの圧倒的不足です。

 男性にとって女性リーダーに対する抵抗感は西洋以上に強いものがあります。それは縦社会で職場での上下関係が人間の本質的関係に重大な影響を与えるからです。仕事とプライベートの境界が曖昧なことも男性にとっては女性リーダーの受入れを難しくしています。

 日本では希薄ですが、世界的にみれば、リーダーの本質は意志決定者です。何でも上司への「忖度」とチーム内の「落とし所」で決めようとする日本のリーダーは異質です。忖度と落とし所には男社会の権威主義や面子が潜んでおり、そこに女性が入ると機能しなくなることを懸念する声もあります。

 私はポストコロナの最大の課題は権威主義の排除にあると思っています。一流の世界のビジネススクールのリーダーーシップの専門家の意見、現場で成果を出しているトップリーダーをみても、いいリーダーはために生きる姿勢を持ち、組織だけでなく、部下からのフィードバックにもしっかり耳を傾け、部下が結果を出せるよう支援する姿勢の重要さが増しています。

 国家レベルでは中国、ロシア、北朝鮮、その他独裁体制の権威主義の国がポストコロナの最大の問題ですが、家族や小さなチームから巨大組織まで含め、人が権威に頼る時代は過ぎています。権威は人を堕落させ、やがて組織は腐敗し、不信感が蔓延るだけだからです。

 この権威主義に走りやすいのが男性です。女性も権力を持てば堕落する可能性はありますが、男性ほど支配欲が強くはありません。ポストコロナで重要なあらゆる方面のフィードバックに耳を傾けられる能力はリーダーには絶対に必要です。

 女性は男性に比べ、放っていても自分の生んだ子供は24時間365日心配します。男は仕事に集中すると子育ては忘れます。女性の持つ母性は社会にとっても貴重です。

 これまで日本の高度経済成長を牽引してきた理系男子は、技術オタクで人間には関心がありません。プラモデルや昆虫に興じる少年が、そのまま大きくなったようなものです。それでは家族や社会を豊かにはできません。

 フランス人妻と生活すれば、今日は夕食は誰が作るのか毎日相談です。部屋が汚いと「女が掃除しなければならないと誰が決めたの?」と食い下がられます。

 女性のリーダーを増やすためには、いきなりリーダーに登用するのは無理なので、彼女らを育てる時間が必要です。同時に男も何の役にも立たないプライドや面子を捨てるのに時間が必要です。それには横の人間関係を重視することも含まれます。

 日本が弱体化するとすれば、権威主義の男中心社会を変えられないことに原因があると思います。

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