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 英国の欧州連合(EU)離脱移行期間が残り1カ月となり、難航している貿易交渉が佳境に入っています。ラーブ英外相は29日、英国・EU間の離脱交渉担当者の間ではこのところ現実的かつ「誠実」な協議が進展しており、週内に「合意が成立する」可能性があると語ったことが伝えられました。

 問題となっている難題ですが、ラーブ外相はそれを認め、英国にとって英海域の支配権を取り戻すことは主権に関わる問題で、EUは認識すべきだと指摘しましたが、その認識では妥結は難しいのが現実です。

 ジョンソン首相も「交渉のボールはEU側に投げられている」と主張しており、ラーブ氏はスカイニューズの番組で「EUが原則を理解することが重要だろう」と指摘。「彼らが現実的になって善意と誠実さを示せば、成立する合意はあると考えている」と述べ、強気の姿勢を崩していません。

 EUは一貫して英海域での漁業権の現状維持を主張し、これに対して英国は離脱に伴い、手にする独自の漁業政策を強調。直接関係のあるフランスやスペインなどのEU加盟国は、英海域での漁業権を認める協議は年次交渉で状況を見ながら決定すべきとしていますが、英国はこれを認めていません。

 英EUの複数のメディアは、英離脱の移行期間終了の12月末以降も、EUに一定の漁業権を認める期間を数年間与える案が出ていますが、英国側は難色を示していると伝えられています。

 先週末、ロンドン入りしたEUのバルニエ首席交渉官は、新型コロナに感染し、11月19日に体面交渉が中断され、その後はテレビ会議形式で協議を続けていました。その後のブリュッセルでの協議も関係者のコロナ感染で中断し、年末までの妥結が危ぶまれています。

 ブリュッセルにいる英公共放送BBCの欧州担当、カティヤ・アドラー氏は「英国が妥協する姿勢を示していないとすれば、EUから土壇場での譲歩をさらに引き出すことが期待されているからであり、漁業権に関しては成果を得る可能性がある」と指摘しています。

 今年1月にEUを離脱した英国は、今年12月で移行期間を終了します。年末までは移行期間で英国は欧州単一市場や関税同盟に暫定的にとどまりますが、来年1月からは離脱合意にもとづく新たな貿易協定がなければ、世界貿易機関(WTO)規則に従い関税が復活し、手続きは煩雑化し、流通システムや企業活動に深刻なダメージを与えるのは必至です。

 英国はEUのエネルギー市場にアクセスできず、警察と司法の協力について合意もないため、安全保障上脆弱(ぜいじゃく)になる可能性も指摘されています。

 つまり、アドラー氏の指摘するように英国がEUにタイムプレッシャーをかけ、EUからさらなる譲歩を引き出す戦略だとしても、決裂の場合は双方に深刻なダメージを与えるのは必至です。昨年は英国議会が離脱協定案を何度も否決し、EU側は交渉のボールは英国側に投げられているといったのと今回はま逆です。

 英国のEUへの2倍、3倍返しの戦略にも見えますが、本当に有効なのでしょうか。 フランスのメディアは、欧州委員会が念頭に置いているEU側の合意内容の精査と意思決定に膨大な時間が掛かることを指し、「英国は理解していないようだ」と非難していますが、それを知ってわざと抵抗しているとしかいいようがありません。

 アドラー氏は「移行期間終了後に主権を取り戻した英国が、EUの社会雇用政策や環境基準で、どのように厳密に従うかは曖昧なままだ」とも指摘しています。EU側は、国境検疫や通関手続きを含む流通の大混乱を避けるための非常事態に備えるようすでに欧州委員会は体制を準備しており、その検討も交渉と並行して行われていると伝えられています。

 互いにタフネゴシエーターの英国とEUですが、今週、本当に膠着状態を脱するためには、双方の誠実な対応、公正さを優先することが重要です。出て行く方が交渉を有利に進められるという単純な話ではまったくありません。唯一の望みはクリエイティブオプションが出てくることです。

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