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 国連の作業部会は、元日産自動車のカルロス・ゴーン会長の一連の逮捕、勾留、起訴について「根本的に不当なものだった」との驚きの見解を示しました。そのうえ作業部会の専門家たちは、日本の司法に対してゴーン氏に賠償するように求めています。

 作業部会の主張によると、不当の根拠は日本の司法はゴーン氏の自由の剥奪を「恣意的(しいてき)」に行ったとし、報告書に何度も出てきています。作業部会そのものが「恣意的拘留に関する作業部会」という名前になっており、私から見れば作業部会そのものが「恣意的」です。

 恣意的とは、気まぐれなどで根拠も論理性もないことを意味しますが、権力批判によく使われます。恣意的な背後には意図的とか政治的なものが潜んでいる場合が多いからです。

 専門家たちは「カルロス・ゴーンを4回にわたって逮捕・拘留したプロセスは、根本的に不当。なぜなら、彼が自由を取り戻し、他の公正な裁判の権利を享受することを妨げたからだ。特に、弁護士と自由にコミュニケーションをとる権利を妨げた」と結論づけています。

 保釈については、自分を有利にするために関係者に不当な圧力をかけたり、逃亡の恐れがある場合は認めないのが慣例ですが、ゴーン氏は結果的に出入国管理法を破って国外逃亡してしまいました。日本の司法の不当性を主張するゴーン氏は他に方法はなかったというわけですが、そもそも裁判は金と腕力で戦うものという傲慢な態度が見え隠れしています。

 報告書では「公正な裁判を受ける権利の侵害は、ゴーン氏の拘留を恣意的なものにするほど深刻だった」とし、「カルロス・ゴーンは、自分が(違法行為に)関与しているという発言を強要するような状況で拘留されていた」「これは推定無罪という本人の権利に違反している」と指摘しています。

 さらに国連らしく「ゴーン氏の自由の剥奪は、世界人権宣言の第9条、10条、11条、そして市民的及び政治的権利に関する国際規約の第9条、10条、14条に違反しており、恣意的であった」と指摘しています。

 この報告書の一連の内容は、これまで欧米メディアが報じてきた日本の司法批判に準じるものです。特に人権大好きのフランスのメディアは、ゴーン氏が何度か保釈を日本の裁判所から拒否された当初、日本は推定無罪が保障されない国だと軽蔑する論調が散見されました。

 欧米と異なり、日本は逮捕、勾留、起訴に極めて慎重で厳格です。余程の根拠がないと起訴に至らないために起訴されれば有罪率が100%に近い数字になっているわけです。慎重で厳格という意味は判断を下す側の警察や検察、裁判官に高いレベルの犯罪を立証する論理性、科学的証拠等が求められているからで、恣意的とはま逆です。

 ゴーン氏の主張は日本政府及び、日産自動車の幹部に意図的にハメられたというもので、目障りな外国人トップリーダーをナショナルブランドの自動車メーカーから排除することが目的だったというわけです。しかし、今ではゴーン氏が会長務めていた日産もルノーもゴーン氏の会社の私物化、不正な資金の流れを明らかにしています。

 今回の国連作業部会の意見書は法的拘束力がなく、日本は不快感を示していますが、こんなレベルの報告書を費用と時間をかけて作る国連を見て、「やっぱりアメリカのいうように国連はいらない」という気持ちになる人も少なくないでしょう。

 それにたった一人の超金持ちのゴーンを人権理事会の作業部会が調査し、擁護する意見書を出す暇があれば、もっと深刻な中国・新疆ウイグルの弾圧や、今も新型コロナウイルスの感染の脅威に晒されながら、バングラデシュの難民キャンプでミヤンマーから避難生活を強いられるロヒンギャの人権問題に取り組んだ方が遥に有益なはずです。

 しかし、日本側に問題もあります。作業部会は調査の情報源を明かしていませんが、いっていることはほぼ日本批判の欧米メディアに出てきたものです。逆にいえば、自分が勝つためには国連まで利用するゴーン氏の執拗な態度が見えてきます。

 日本の問題は発信力の弱さです。たとえば中国は海外からの自国への非難があった場合、逐一、報道官が答えています。たとえその声明が偽善に満ちた嘘でも、根拠のない言い訳でも、繰り返される効果は絶大です。地理的に遠いヨーロッパなどは、簡単に中国の主張を信じてしまいます。

 一連の日本のゴーンに対する扱いへの欧米メディアの批判に対して、徹底して丁寧に間違いを正す主張を発信すべきです。たとえば世界的に影響力の大きなアメリカや英国、フランスなどのメディアの書いたことに間違いがある場合は、積極的にその国の大使などがその国のメディアを使って抗議し、説明すべきですが、そういう戦い方を見るのは稀です。

 それもその国の言葉で説明する必要があります。今はSNSもあり、発信するツールは多いわけですから、日本の波風を立てないことが一番という日本的態度は、国益を損なう危険性があります。転んでもただでは起きないゴーンに負けて賠償金まで払わされたら、日本の面子は丸つぶれです。

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