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 異文化理解はグローバル化が進む中では重要ですが、最も注意すべきは相互理解を妨げる偏見や固定観念に繋がることです。新型コロナウイルスの正体が未だに正確には判明していない中、各国、各地域で対策に取り組んでいますが、文化の違いはどの程度感染拡大に影響しているのでしょうか。

 無論、感染症と文化の関係は、それほど科学的に研究されたことがないため、文化や民族研究を身ながら推測の域を出ない話ですが、たとえば、世界一人間同士の身体的距離が近いといわれるインド、パキスタン及び周辺国の人々と密の関係はどうなのでしょうか。

 このブログで過去に多少言及したことがありますが、異文化で協業するために大切なことに自己開示と人との距離というのがあります。アメリカの文化人類学者のエドワード・T・ホールの研究で明らかになっているパーソナルスペース、対人距離は参考になります。以下の通りです。

<4つの距離帯>
1、密接距離:0cm〜45cm・身体に容易に触れる距離(家族、恋人など親しい間柄)
2、固体距離:45cm〜120cm・2人が共に手を伸ばせば相手に届く距離(友人同士)
3、社会距離:120cm〜350cm・身体に触れることは出来ない距離(仕事関係など)
4、公衆距離:350cm以上・講演会や公式な場での対面のときにとられる距離
 
 これはアメリカ人を中心とした平均値で、この他に人種や民族でのパーソナルスペースの違いも指摘されています。それは以下の通りです。(欧米人の対人距離が最も長い)

異文化対人距離 欧米人>日本人>中国人>アラブ人>地中海地域>中南米>インド人

 たとえば、ヨーロッパ人と一口に言っても人口密度との関係もあります。フィンランドはヨーロッパで最も人口密度が低い国でオランダなど高い国に比べれば、日常生活でパーソナルスペースは広いといえますが、完全に比例しているわけでもありません。

 世界的に見て比較的人口密度の高い日本は中国の倍以上の人口密度ですが、日本人の方が対人距離が広い例もあります。では、このパーソナルスペースと新型コロナの感染率の関係はどうなのでしょうか。つまり、感染が「密」状態と関係しているとすれば、インドはアメリカより深刻な結果になるのでしょうが、そうともいえません。

 では、マスクはどうでしょうか。実は私自身も、この30年間ヨーロッパにいたことが多かったのですが、よく彼らはマスクの習慣がないといわれます。それはその通りですが、文化的側面も影響しています。それは相手を敵か味方か、危険はないのかを本能的に判別する心理状態にあります。

 この2000年間、対立と闘争に明け暮れ、国境の位置が激しく変化したヨーロッパでは、自分のアイデンティティを明確にするだけでなく、相手への不信感や警戒心は非常に強く、結果、相手を判別することは重要です。通りを歩いていても顔は分らない状態はストレスを与えます。

 その結果、イスラム教徒の女性がブルカやチャドルなど顔を全面的に覆う衣服を着用して町を歩く姿は相手を判別できないだけに脅威です。マスクにも同じ影響があり、それは本人たちが気づいているかどうかは別に日本人よりはストレスになっているはずです。

 異文化コミュニケーションの観点からいえば、自己表現に非言語の身体表現を多用するローコンテクストの欧米人は、マスクで自己表現が半減し、相手の感情も読みにくくなることは、コミュニケーション上、重要な障害になっています。顔の表情がコミュニケーションに重大な影響を与えない東洋人ではダメージは少ないといえます。

 さらに握手ができない、頬にキスができない、ハグできないのも人間関係に大きな影響を与えています。リモートワークもそうですが、身体接触は重要なコミュニケーション手段だけに、人との距離を取ることを強い、身体的接触を禁じることはかなりの試練です。

 それと個人主義からいって、マスクは人にウイルスを移さないためと公共マナーをいわれても、なかなかです。個人の自由を何にもまして重視する人々にとっては、マスク着用にも選択の自由があるはずというわけです。欧米諸国でマスク着用の義務化に反対するのは当然ともいえます。

 一般的な個人主義は、個人の自由と権利を最優先に考え、それが他人の自由や権利を侵さないように公共のマナーが存在しています。マスクは個人の自由や権利をかなり制限するマナーなので、集団主義、家族主義的な共同体重視のアジアと比べ、受け入れるのは簡単ではないということになります。

 これがマスクはウイルス感染を防ぐ効果があることが科学的に証明されれば、抵抗なくマスクをするかもしれませんが、今のところ、自分のウイルスを他人に感染させる抑止効果しか科学的に説明されていません。西洋人は鼻が高く鼻の穴が細長いので、マスク着用は苦しいという側面もあります。

 政府のいうことに従順に従う国民性があるかないかも注目点です。ヨーロッパでフィンランド人は政府の支持に従順に従う国民性があるといわれ、感染率も低いという現状があります。アメリカ人は州政府や自治体のいうことにも従わない傾向があり、南米はそれがさらにその傾向が強いといえます。

 無論、この点では独裁国家は有利です。北朝鮮では感染者は殺処分されているという話もあるくらいで、中国は感染を強権を使い、強引に抑え込んだ実績もあります。

 最後に不確かな状態に感じるストレスの度合の違いも免疫力という意味で健康リスクと関係があります。これはホフステードというオランダの学者の調査で分かっていることですが、不確かな状況に強いストレスを感じる代表選手は日本人です。ドイツ人やフランス人も不安を感じる方です。

 逆にあまりストレスを感じないといわれるのがアメリカ人、中国人、英国人などです。不確かな状況が特徴のグローバル化に危機感やストレスを感じない分、向いているといわれています。

 しかし、その問題とコロナの関係は不明です。たとえば不確かな状況に強いはずの中国人は、命に関する危機には非常に敏感です。武漢でウイルス感染が拡大した時、ロックダウン前に日本に脱出した中国人もいたほど行動は迅速です。東日本大震災で日本在住の中国人が日本を脱出するために再入国許可のスタンプをもらいに出入国管理事務所に殺到したのも有名な話です。

 同じ不確かな状況にストレスを感じにくいアメリカ人は、コロナウイルスの感染拡大が深刻でも国外脱出はおろかマスクをしなかったりして中国人のような行動はとっていません。

 今のところ、文化や国民性が新型コロナウイルスの感染にどのような影響を与えているかをデータ分析する研究はありませんが、コロナ禍はその違いをあぶり出しているように見えます。

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