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 新型コロナウイルスの大流行で、世界各国政府にとって、今や最も深刻な課題になっているのが、国民に対策をどう理解してもらうかです。狼少年の話にあるように、本当の危機が訪れるまで嘘をつけば、本当の狼が来た時に人々は深刻に受け止めず、最悪の事態に陥ります。

 企業も悪自体に見舞われた時、パートナー企業や顧客への伝え方には頭を悩ますものです。社内で不正会計が発覚したり、コロナ禍でサプライチェーンが寸断され、納期を守れないとか、顧客の個人情報が大量に漏洩した場合に、会社は伝え方を間違えると致命的ダメージを受ける可能性もあります。

 悪い情報を伝える場合、大きく分けて3つのパターンが考えられます。一つは、たとえばトランプ米大統領が今年1月、非常に危険な新型ウイルスがアメリカに流入した情報を専門家から得た後、国民がパニックに陥らないよう本当の深刻さを伝えなかった例があります。

 人間は悪い情報に過度の反応を示し、冷静さを失う可能性があり、それがさらなる悪影響を与えることを配慮するというものです。癌のステージ4を本人に伝えるかどうかで意見が分かれるのも、パニックに陥れば免疫力が落ち、しんこうが進む可能性をどう扱うかは悩ましいところです。

 2つ目は、なるべく正確に悪い情報の中身を伝えるべきという意見です。包み隠さず本当のことを相手に伝えることで危機的状況を共有し、そのリスクの対応策も示していくというものです。日本的には誠実さを表すものですが、そのリスク情報に社内的ミスが伴うと信頼を失う可能性もあります。

 さらに悪い情報をそのまま伝え、問題解決に時間が掛かる場合、警告の効果が狼少年の話のように薄まったり、警告に疲れが生じ、信頼関係を失うリスクもあります。たとえば、誰が取り組んでも困難なコロナ対策で悪い結果が出れば、政府や専門家が批判され、信頼関係が失われる現象が実際起きています。

 3番目の傾向は、日本で特に起きやすいのですが、悪い情報を隠蔽することです。伝えることで自分が不利になる可能性が高い場合、保身から情報を隠蔽してしまうことです。たとえばギリシャの財政危機は、膨らんだ財政赤字を政権が長期に隠蔽した結果起こり、その影響は欧州連合(EU)どころか世界のユーロ不信を生みました。

 不正会計、製品の検査の不徹底、不良品隠しなど、悪い情報の隠蔽は通常、結果として全体に深刻なダメージを与えます。政治家は発覚しなければ墓場まで悪い情報を持っていくといわれますが、信頼関係に深刻な亀裂を生じさせるものです。

 これら3つの伝え方から、何を選択するのかが判断の分かれるところですが、当然ながら、今では隠蔽だけは避けるべきという意見が大勢を占めています。その上で国家も企業も自社の顧客に対し、判明したすべての潜在的リスクについて、どう警告するは非常に大きな課題です。

 心理学的には人は未来の確実性を求める傾向があるため、不確実な状況は苦手です。パニックを引き起こすのもそこから来ています。通常、リスクマネジメントをしっかりやり、危機に直面しても問題解決の意思決定や方法を準備していれば、多くの不確実には対処できるようになっています。

 同時に警告方法も進化しています。台風到来時、災害経験から日本では今、リスクの段階基準を単純化し、たとえば「100年に一度の豪雨」などという表現を使って警告しています。この場合はリスクの深刻度を伝えやすくし、次ぎの行動も示唆することで被害を最小化しようという試みです。

 最近増えるパソコンからの情報漏洩では、増えるリモートワークで自分のパソコンが会社のパソコンと繋がっていることで、IDやパスワードを盗むサイバー攻撃のリスクが高まっているといわれています。これを伝えるために空の情報でハッキング対策を行わないパソコンを使用した実験で、数時間の間に13,000件の攻撃を受けたデータが公表されています。

 その情報はリスクマネジメントに効果的情報です。しかし、問題は起きたクライシスへの対応です。100万人分の個人情報を盗まれた場合、全体の何%に被害が出るかというデータは、不確実な状況に確実性を与えるものです。

 多くの場合、企業は個別にダメージコントロールを行い、情報は公開されないままになるケースは少なくありません。ところが組織的に見ると、その隠蔽は他者との信頼関係を傷つけている場合は少な炒め、別のリスクに発展する可能性もあります。

 日本人は場当たり的対応と隠蔽が得意ですが、長い目で見れば発展を妨げる要因になりかねません。大切なことは、会社や組織が評判を落とすことに対処するより先に、顧客が不確実な要素について理解し、適切なリスク対処に動けるよう、必要な情報を提供することです。

 つまり、短期的危機回避と長期的危機回避を慎重に検討し、あくまで事態打開の新たな目標設定を行い、正確な情報と解決策を相手に提示することです。その時に自分たちでできることと自分たちがコントロールできないことを仕分けすることも重要です。

 その場合、つまらない虚勢や保身で評判ばかりを気にすることは排除する必要があります。リスクマネジメントに与える悪影響のほとんどは、人間自身が与えているといわれているからです。

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