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 欧州連合(EU)は先週13日、オンライン形式で開いた内相会議で、域内におけるテロ防止策を協議し、イスラム過激派などの同校をより詳細に把握するため、域外との国境管理を強化する方針で一致しました。フランスやオーストリアでイスラム過激派によるテロ事件が相次いだことを受けた措置です。

 EUはこれまでも、テロリストの域内流入について監視し、加盟国同士が情報共有するよう努力していましたが、今回の協議で内相らは「明らかに改善の余地がある」との認識で一致しました。現実は新型コロナウイルス対策に重点が置かれ、テロ対策がおろそかになっている側面もあります。

 この10年間のテロ事件の新たな傾向は、困窮する環境で育ったホームグロウンのローンウルフ型テロリスト(単独犯に近い)が無差別テロを実行する例が明らかに増えていることです。つまり、当局が監視している危険人物同士の接触などテロ計画の事前察知できるテロではないことです。
 
 実行犯はいずれも若く、ネットや刑務所で過激な聖戦思想に看過され、監視リストにはない人物も多く、衝動的とも取れる行動でテロを実行しています。10月16日に起きたムハンマドの風刺画を生徒に見せた中学校教師を殺害したチェチェン人の18歳の男は協力者はいたものの行動は衝動的でした。

 シリアやイラク、リビアなどに潜伏する過激派組織は、ネットを利用して聖戦主義を広め、差別や貧困の逆境で生きる若者にテロを実行することを促しています。新型コロナウイルスの感染拡大の長期化でさらに窮地に追い込まれているマイノリティーの社会的弱者がテロリストになることは容易に想像できます。

 一方、新型コロナウイルスの再拡大が顕著なヨーロッパでは英国が死者累計が5万人超え、フランスやイタリアも今の流れだと5万人に近づいており、今年2度目のロックダウンに入っています。クリスマス商戦たけなわの時期のロックダウンが与える経済への影響は深刻です。

 フランスは死者や重症者の増加が止まらないことから、12月初旬までのロックダウンをクリスマス前まで延長する可能性にカステックス首相が言及しています。どの国もロックダウンがもたらす経済的ダメージを最小化したいところですが、ロックダウンそのものに国民が従わない現象も起きています。

 人の移動を止めればテロは起きにくいはずですが、今は外出許可証に数種類あり、散歩なら1キロ以内1時間はフランスでは可能です。通勤者も多く、地下鉄を狙ったテロも可能です。警察は外出禁止令違反者とテロリストを同時に監視しなければならない状況です。

 EUは年末に英国に離脱移行期間を終了します。難航する貿易協議で合意なき離脱の可能性もあります。合意したとしても今までどおり全てが同じというわけにはいきません。すでにさまざまな混乱が予想されており、この混乱もテロリストにもウイルスにも好都合です。

 個人的には、この逆境を乗り切るためにはEUの結束、リーダーシップは欠かせません。ところが議長国ドイツにせよ、前独国防相のフォンデアライエン欧州委員会委員長にせよ、危機を救うリーダーシップが発揮されているとは見えません。

 欧州全体は今後、イスラム教排除の動きからテロの季節を迎えるのは明白です。鎮静化したように見えたポピュリズムも健在です。ウイルス対策でEUとして足並みを揃えて対策に取り組むことはあまりしていません。やっと経済復興予算が決まった段階ですが、それでは足りない可能性が高まっています。

 アメリカの政権移行で希望が見えてくるかも疑問です。トランプ政権がアメリカ第1主義を抱え、欧州に圧力を加えましたが、実は民主党はもともと内政重視の内向きです。バイデン氏が世界各国との関係を改善したいといってもオバマ時代に外交をみると、けっして明るい未来があるとはいえません。

 それでも欧州には豊富な経験を持つ有能な人材が少なくないので、リーマンショックやギリシャのユーロ危機を乗り越えてきたように乗り越えられると見るのが妥当でしょう。明確な秘策があるとはいえませんが、逆境に直面するEUの真価が問われているのは確かです。

 一見衰退の一途を辿るように見える欧州ですが、悲観的になることなく危機をチャンスに変える若い人材にも期待したいところです。

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