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 いよいよ英国は欧州連合(EU)離脱の移行期間を年末に終え、貿易協議が妥結するかしないに関わらず、EUを去ることになります。互いにタフネゴシエーターで知られる英国とEUは妥協する姿勢を見せず、今週、貿易協定の最終盤の交渉も難航し、来週に結論は持ち越されるとの報道がありました。

 英国は1国ですが、2016年からの離脱協議で何度も議会で協定案が否決され、今では合意した国際条約である離脱協定を骨抜きにする法案を与党が提出し、EUの怒りを買っています。

 英上院では同法案の目的が骨抜きになる修正を加え、賛成可決しましたが、ジョンソン英首相は下院での巻き返しを目指すと述べ、諦める気配はありません。

 一方、EU側は、バルニエ主席交渉官に権限を与え交渉に当っていますが、彼の背後には27カ国の合意が必要で容易ではありません。民主主義の手続きの煩雑さがブレグジットに露呈した形ですが、民主主義とはそういうものです。

 とはいえ、民主主義の意思決定の背後にある政治勢力は戦後、長い期間、保守とリベラルの闘いの構図が続き、最近は両者の政策の差異が縮まり、フランスのように中道を選択する動きも出ています。

 そもそも各国で保守、リベラルの中身が違うわけですが、英国は労働党出身のブレア政権の時にEU社会党大会に出席し、「古い社会主義は捨てるべきだ」と発言しました。背景には労働党支持者が伝統的な労働組合だけでなく、ホワイトカラーが増え、政治に有効な経済政策が求められるようになったからでした。

 2000年代に入り、遅まきながら、EUの大国であるドイツ、フランスでも最重視されていた社会民主主義にほころびが生じ、ドイツでは保革共存政権が、フランスではサルコジ政権に代表される大幅な自由市場主義化が進みました。

 しかし、英国とフランスを見ると、違いは歴然で、その違いは啓蒙主義から国王と教会権力者をギロチンに掛けたフランスと、その100年前に国王と政治権力、宗教対立を大虐殺も行わず無血で革命を行った英国との違いが、今も民主主義に影響を与えているといえます。

 フランスで10月16日に起きたパリ郊外の中学校の教師が、授業中にイスラム教が禁じるムハンマドの風刺画を見せて、イスラム過激派に斬首された事件は、改めてフランスが血で血を洗う大革命で個人の権利を勝ち取った国の姿を浮き彫りにしたと私は感じました。

 流血の末、国王と既得権益を持つカトリック教会権力者を処刑したフランスは、革命時の1789年の「人間と市民の権利の宣言」を制定し、それは今でも共和国の価値観を規定しています。今回問題になっている表現の自由は、権力からの自由で既存の階級には左右されない権利を意味しています。

 革命に至った啓蒙主義は、国王と教会(背後にはヴァチカン)の従属する無思考状態を脱し、自分で考え、自分で判断することでした。その結果、無思考で盲目的な状態を強いているのは王と教会の権力者だとして、血祭りにしたのが革命だったといえます。

 そこで勝ち取った権利の代表格が表現の自由なので、国内外のイスラム勢力の批判をよそにフランス政府は犠牲となった中学教師パティ氏を表現の自由の殉教者にして国葬、最高位の勲章授与にし、「ムハンマドの風刺画を諦めない」とマクロン大統領は啖呵を切ったわけです。

 権力=悪という考えが染みついているフランスですが、実はそれはフランス革命を正当化するリベラル派の考えで、その考えが浸透している公立学校で教育を受けたフランス人に最も顕著な考えといえます。一方でカトリックが運営する私立、あるいは信仰熱心で革命に抵抗したブルターニュ地方などの人には、別の保守の伝統も存在します。

 そのあたりは、フランスの革命肯定派のリベラルな啓蒙思想を持つ知識人に感銘を受けた日本の知識人が、フランスのリベラル思想を持ち込んだため、フランスの保守を正確に理解することを困難にしています。今でも日本の左派知識人にフランス崇拝者が多いのは、そのためです。

 保守思想研究でエルドマンド・バーグが著した『フランス革命の省察』が有名ですが、今でも保守とリベラルは中身を変えながら存在しています。

 しかし、権力=悪という考えは、今は廃れつつあります。ましてや処刑などとんでもありません。トランプ米大統領が敗北を認めないからといって、民主党側がトランプ氏を処刑するなどありえません。それに英国が名誉革命で無駄な時を浪費したといいますが、私は権力者を処刑しなかったことは誇れる功績だと考えています。

 フランスでは今回のシャルリーエブドの風刺画問題で、表現の自由を金科玉条のように掲げると市民は狂ったように同じ方向を向き、戦闘モードに入る姿に革命の血を感じ、それこそ反対意見が封殺され、言論の自由はどこに行ったのかと思うほどです。

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