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 このブログでアメリカの次期大統領選は、トランプ大統領を支える岩盤支持層といわれる伝統的キリスト教福音派(エヴァンジェリカル)の動向が大きな影響を与えると指摘しました。というのもこの4年間で福音派内部にトランプを支持しない、あるいは民主党寄りの勢力が出てきたからです。

 重要な点は宗教は政治とは異なる性格を持つもので、アメリカのマスメディアでさえ混同しています。信仰、特に一神教には明確な世界観が存在し、それは国家の法律を超えた価値観も持つものです。

 アメリカの伝統保守派は基本、アメリカは神が特別に準備した福地であり、世界の秩序を守る使命があるというピューリタニズムの考えです。トランプ氏がいうアメリカを偉大な国にするというモットーの背景には、福音派や共和党が信じる普通の国ではないアメリカが存在するということです。

 アメリカが第2次世界大戦では大西洋の対岸で起きた独裁者ヒットラーによるヨーロッパ支配と闘い、冷戦時代には神の存在を否定する共産主義と闘った背景には神に召命された使命感があったのは確かです。

 同時に外的使命が本質ではなく、聖書に書かれたことを正確に実践することを重視するのが福音派の特徴です。そこにはキリスト教が禁じてきた同性愛や妊娠中絶に反対すると同時に、純潔を守り家庭を大切にする(この部分は怪しいが)人生観、許しの精神で奉仕生活を実践するのが建前です。

 そんな福音派の本来の姿は、実は世俗化とも距離を置くものです。敬虔なキリスト教徒は本来、ハリウッド映画や若者が熱狂する音楽の世界で活躍するセクシーさを売り物にするド派手なスターたちとは無縁です。実際、多くのスターは反トランプの民主党支持者です。

 かつてのバイブルベルト地帯と呼ばれた地域でトランプ氏に投票した層の中には白人福音派層が多く、私がかつて取材したユタ州のモルモン教も、かつては黒人は排除されていました。福音派には今でも白人優位の人種差別のルーツが残っていますが、最近は排除の方向です。

 たとえば、福音派の中にも近年、女性の権利や同性婚、今年拡がったブラック・ライブズ・マター(BLM=黒人の命は大事)運動を支持する声が上がっています。同時にBLMを支える極左思想に対する警戒感も薄れていることが指摘されています。

 実は福音派の主流は、政治との距離を置くだけでなく、政治の優位を不快に思っており、どの大統領に付いていくかではなく、誰が大統領にふさわしいかを判断するのは彼ら自身と考えているといわれています。

 ところが福音派の中でも社会正義に重心を置く勢力は今回のBLMや弱者救済問題で民主党寄りの主張するグループも登場していることが複数の米メディアで指摘されています。

 彼らは当然、トランプ支持者ではありません。さらにトランプ氏の平気で人を傷つける下品な過激発言や、常にブロンドの美人しかスタッフに採用しない趣味、派手なプライベートな生活に辟易する福音派も少なくないのが現状です。

 リベラルメディアの米ニューズウイークが「トランプの運命は信仰の力次第」という指摘は興味深いものがあります。

 一方、民主党リベラル勢力もサンダース上院議員に代表される社会主義者の左派から共和党に近い考えを持つ中道まで一体感はありません。今は若者に人気のあるサンダース氏で勢いづく左派を気を使い、ハリス氏を副大統領候補に立て、高齢のバイデン氏が当選後に倒れれば、極左のハリス氏に政権が委ねられることになります。

 民主党の大統領候補指名争いで泡沫候補で、なおかつバイデン批判を展開してきたハリス氏が大統領になれば、われわれがかつて見たことのないアメリカが出現することでしょう。高齢のバイデン氏を立てざるを得ない民主党の事情は深刻で、大統領選が終われば、党派内分裂も一挙に表面化すると見られています。

 つまり、興味深いのは保守もリベラルも内部分裂が始まっていることです。ポストコロナは誰が大統領になったとしても、人々の意見は多様化し、それらの意見の受け皿になる新たな政治が求められているといえそうです。

 興味深いのは、これだけコミュニケーション手段が発達する中、人種差別や同性婚問題で、議論が封殺される傾向が指摘されていることです。「これをいったらネットで袋叩きになる」という話です。これこそがポストコロナのネット民主主義を脅かす警戒すべき現象と思われます。

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