深圳市政府
 ハイテク産業集積地の香港に隣接する深圳

 70年前、毛沢東を中心に社会主義理想郷建設に燃えた同士たちが今の中国を見たら、どう思うのでしょうか。気の遠くなるような大金を手にした一部の富裕層と、相も変わらず、極貧生活を送る貧困層の姿を見て、社会主義はどこに行ったのかといぶかることでしょう。

 コロナ禍を世界でいち早く抜け出し、好調な経済回復を国内外に誇示する最近の中国ですが、本当の姿は貧富の差の急速拡大は無視できない現象です。米ウォールストリートジャーナル(WSJ)によると、コロナショックは世界の例外にもれず、中国は富裕層はますます財を増やし、貧困層は窮地に追い込まれていると指摘されています。

 WSJは、オックスフォード・エコノミクスのシニアエコノミスト、トミー・ウー氏が「米国と同様、中国経済も『K字』型の回復軌道にある」と指摘し、「コロナ禍が中国で貧富の差を広げたのは間違いない」とする見方を紹介しています。

 業種によって明暗が別れるK字型景気回復のシナリオでは、コロナショックで中小企業の倒産が相次ぎ、移動サービスの旅行業や接客サービス業が決定的ダメージを受け、そこに関わる多数の人が失業し、貧困に陥る一方、ハイテク大手や医療危機や医薬品業界などは急速に利益を伸ばし、過去にない収益を挙げていくというものです。

 第一次産業もレストラン業などの消費が落ち込むことで、農業、漁業に関わる人は苦戦を強いられていますが、最も人口の多いサービス業に関わる人々も貧困を強いられています。

 一方、「アメリカと同じように、中国でもコロナ禍による高所得層の雇用への影響は軽微にとどまった。しかも、彼らが保有する株式や不動産は値上がりが続いている」と指摘、それとは逆に「何億人もの低所得層は失業や収入減で今も苦しんでおり、あてにできる生活保護措置も保有資産もほとんどない」とWSJは書いています。

 改革開放に舵を切って40年、中国共産党政府にとって、最も頭の痛い問題は、小平がいった「金持ちなれるものからなりなさい」の号令で開いてしまった貧富の差です。こんなに豊かな中国を築いたのは共産党政府のおかげで「人民は感謝しなさい」という政府にとって、その恩恵に浴さない貧困層は爆弾のようなものです。

 中国のシリコンバレーといわれる深圳の経済特区成立40周年を祝う記念式典で今月14日に演説した習近平国家主席は「世界の産業変革の主導権を勝ち取る」と息巻きました。

 対米経済戦争でハイテク産業の振興は不可欠なものです。かつて漁村だった古びた町が高層ビルの建ち並ぶ超近代都市に生まれ変わったことを「中国の奇跡」と象徴する深圳は、コロナショックで世界制覇の最重要基地となりました。

 貧困層には目もくれず、経済回復の牽引役のハイテク産業の集積地には力を入れる中国共産党ですが、その一方でコロナで職をなくした数億人の人々の受け皿はなくなる一方です。今年1-6月期(上半期)に、中国の下位60%の世帯が失った所得の規模は約2000億ドルに上るという指摘もあります。

 このブログでも紹介しましたが、スイス金融機関UBSの調査報告によれば、中国では2019年初めから2020年7月までに億万長者が新たに145人増えたとされ、今年の富裕層の資産が過去最大に増えたといいます。

 今後、政府が他の先進諸国にように失業保険制度を整備しなければ、第2の共産革命運動が起きても不思議ではない状況です。国民の多くの不満は命取りです。タイで絶対タブーとされた国王を批判する大規模デモを見ると、人々の不満に容易に火がつく時代であることは間違いないといえそうです。

 この事態は中国共産党が21世紀の社会主義モデルなどと豪語できない事態が足元で起きているということです。

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