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 海外赴任や国際出張が新型コロナウイルスの蔓延で物理的に困難になって半年以上が経ちます。それでもグローバルビジネス再開の動きは徐々に高まっています。ポスト・コロナがどんな世界に変化するのかは、誰にも予想ができませんが、今は不確実な時代を生き抜くための心の問題が大きなテーマになっています。

 通常、赴任鬱に陥らないため、異文化環境でカルチャーショックを最低限に軽減する方法を研究するのが私の専門分野の一つですが、異文化の不確実性に対処する方法は、コロナ禍での不確実性に対処することに応用できることです。

 コロナ禍で将来に対する不安に押しつぶされそうになっている問題は、異文化環境でストレスを最低限に抑え、成果を出すことより、さらに難しい問題でもあるように見えますが、全ての人類が共有している試練という意味では、孤立感は薄いかもしれません。

 異文化の環境で鬱に陥る入り口は、周囲の人が感じない異文化の違和感が孤立感をもたらすことです。心理学の世界では、不安な気持ちは、より自己中心的な思考と行動を示す要因になるといわれています。自己防衛本能、保身というサバイバル・モードに入ると人間は視野が狭くなり、本来、自分に有益な人間関係まで拒否し、心的引き籠もり状態になりがちです。

 結果的に人とのコミュニケーションを避けるようになり、負のモードに入り、「苦しんでいるのは自分だけだ」と孤立感が深まり、当然、視野も狭くなるというわけです。その自己中心モードを抜け出すためには、人のためになることを実行することです。小さなことでも相手が喜ぶことをすることで自分の心も楽になることは心理学でも証明されています。

 たとえばコロナ禍で、私自身、コロナ見舞いの葉書を親族や友人、知人に送りました。そこには最近、私が趣味で描いた花のパステル画を添えました。その絵は自然の力の凄さに励まされて描いたものです。驚いたことに想定していなかったポジティブな反応がたくさんの送り先から返って来て、それが自分の力にもなった経験をしました。

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     コロナ見舞いの葉書に添えた筆者のパステル画

 つまり、人間に共通する深いところで共感できれば、孤立感から解放され、自分を深く内省できるというわけです。

 アンガーマネジメントに「べき論」を振りかざすのをやめ、「異なるやり方もありうるし、選択肢は別にもある」と考えることの重要性が指摘されています。その前提は、自分で解決できることとできないことを切り分けることです。

 異文化では多くの場合、相手を変えることは不可能に近いことです。にもかかわらず、自分の常識に従って相手を変えることばかりに集中すると、自分が壊れてしまいます。

 コロナ禍でも将来に対する不確実な状況下にある中で、自分の常識や固定観念に固守すると道が見えなくなる可能性があります。経験知は重要ですが、経験知の中である一定の条件下でのみ有効なものと普遍的に適応できるものは切り分けるべきです。

 たとえば、嘘をつくのは非常に悪いと教えられて育った日本人が、嘘も方便という国で仕事に報連相を適応しようとすれば、嘘の報告の上で業務は失敗する可能性があります。コロナ禍でも自分の中の経験知に裏付けられた常識は再検証すべきです。

 コロナ禍の不確実な状況で必要な自分に対する検証について、ハーバート・ビジネスレビューに掲載された「将来への不安に押し潰されず、成長の機会に変える」というポテンシャル・プロジェクト創設者のラスムス・フーガード氏の論文があります。

 それによると、たとえば、自分の心が不安やストレスに陥ってしまうのは、どんなとき、どんなきっかけなのか。より気持ちが落ち着いて回復力を感じるのは一人でいるときか、それとも他人といるときか。さらに自分らしい適切な判断をしているかどうか、自分でわかるか、とあります。

 つまり、極度に不安や恐怖を感じる不確実な状況では、利他的行動を維持し、冷静さを保ちながら、「自分自身をより知ることに注力すべき」という指摘です。利他的思考や行動、自分が何をできるを知ることは、不確実なビジネス環境に答えを与えてくれます。

 この論文で印象的だったのは再起力(レジリエンス)を高めるために、「ときおり数分間、周囲の音や食べ物の味を意識して、屋外で顔をなでる風に注意を払ってみよう。時々立ち止まって、五感があなたに伝えていることを観察するのは、心が忙しさから逃れる機会になり、あなたの意識を高める」とあることでした。これは私にも経験があることです。

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