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 とうとうフランスの身内が新型コロナウイルスに感染し、危機が身近に迫っています。感染したのはフランス人妻の17歳離れたパリに住む弟で、感染経路は分かっていませんが、大手コンサル会社に勤める彼は、この半年はリモートワークでしたが、日頃、外出時にマスクを馬鹿にしてしていませんでした。

 聞けば彼は陽性が分かった前日、彼の30代の甥の建築家夫婦に会いにいっており、その甥もマスクをすることはほとんどない状態です。自分が感染したことが分かっても甥に伝えようとしないため、情報を聞きつけた私の妻が連絡して知らせる始末で、これだけコロナが騒ぎになっているのに危機感がないことが透けて見えました。

 ロンドンに住む娘は、マスクをせず、大人数で集まって酒を飲んで騒ぐ若者たちを見て「彼らは本当に馬鹿だ」と軽蔑しています。罰金でも科さなければ政府のいうことを聞かない実態は日本とは大きな違いです。ヨーロッパでは若者の多くが「コロナはインフルエンザと同じで必ず治る」とか「若者は免疫力が強いので、ほとんど無症状で終わる」といっています。

 そこで各国政府は、自分が軽い症状で終わっても、持病があり免疫力の低い高齢者に感染するリスクを考慮して、マスク着用や手洗いの徹底を呼び掛けているわけですが、そもそも自分を守るためでなく、他の人にうつさないマスクという考え方では、自分のことを最優先で考える個人主義者には、面倒くさいだけのものです。

 それより気になるのは、世界中の多くの若者が既存メディアの報道に関心がなく、多くの情報は共感を得るためにSNSに掲載されたニュースだけで、当然、共感を得る内容に偏ってしまっていることです。さらに政治不信ではなく、政治に関心がなく、政治の力も信じていない若者が増える一方だと私は見ています。

 そのため、今回のような公衆衛生に関わる深刻な問題で政府が次々と対策措置を打ち出しても聞く耳を持たない現象が起きています。「政府のいうことに従う」のは社会主義国家や独裁国家の話で誰もが自由に選択できる自由社会で「国家権力=悪」と受け止める風潮もある中、政府のいうことを絶対視する若者は減る一方といえそうです。

 特にマスクをすることは利他的行為なだけに、利他的に生きる習慣の乏しい若者は、共感こそすれ、自分を優先する文化によって他者を尊重する精神が失われつつあります。自由主義世界では、世界各地でマスク着用義務に反対する運動が起き、バーやレストランの営業禁止に抗議し、政府を提訴する動きも起きています。

 大して見識も知識もないのに政府のいうことやマスメディアの提供する情報を馬鹿にし、自分勝手に行動する若者が散見され、それは今では大人社会にも拡がっています。日本以外の国では政府が適切な対策を講じるかより、その対策に気分で動く国民を従わせることに苦労しているのが現状です。

 あらゆる権威が失墜し、過去にこだわらない若者が唯一追求するのは人生を楽しむ「Fun」ですが、過去の歴史にも何度かそのような時代があり、人々は一過性の享楽にふけり、国を滅亡させた経験があります。自由と民主主義の社会は、社会主義中国の前に衰退を見せていますが、実はその中国でも若者の享楽に歯止めが掛からない状況です。

 ごく一握りのITビジネスのビリオネの成功者と、明日を生きることすら不確実な若者の増加はコロナ禍で加速しています。スペインでは若者の失業率は47%と驚異的数字です。彼らが自暴自棄になり政府のいうことを聞かないのは当然ともいえる現象です。

 しかし、失墜した権威の中で人々が本物を見極めることができれば、希望はあると私は考えています。コロナ禍はそれを見つけるために高い犠牲の代価を支払わされているのかもしれません。

 そのために人間が抗しきれない自然現象の前に謙虚であると同時に、人間や自然に本来備わった生命力を大切にすることが再起力(レジリエンス)の基本だと思います。

 私の好きなスペインの画家、ミロは戦争で疲弊し、荒廃した世界に向け、息を吹き返す星や花、昆虫、動物を活き活きと描きました。東日本大震災の津波に全てが押し流された瓦礫の中から一輪の花が咲く姿は自然の生命力の凄さを見せてくれました。そんな生命力を大切にしていきたいものです。

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