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 トランプ米大統領は今月26日、死去したギンズバーグ連邦最高裁判所判事の空席を埋めるため、シカゴの連邦高等裁判所判事であるエイミー・コニー・バレット氏を指名すると発表しました。当然ながら自身の大統領選での再選が念頭にある一方、終身である連邦最高裁判所判事の構成を保守派で長期に占めることができる48歳の若いバレット女史を選んだと見られます。

 注目点は、リベラル派の伝説的闘志だった故ルース・ベイダー・ギンズバーグ最高裁判事の後に彼女の対局に位置するは敬虔(けいけん)なカトリック信者で、人工妊娠中絶について「常に不道徳なもの」といってきたバレット氏を据えようという保守派のトランプ氏の明確な意志があることです。

 当然、念頭にトランプ氏の岩盤支持層といわれる福音派教会を中心としたキリスト教伝統保守に答える狙いがあるのは明らかです。では、アメリカにおける伝統保守とは何を意味するのでしょうか。

 バレット氏の家族構成、日頃の言動がその全てを表しています。彼女には8歳から19歳までの7人の子供がおり、うち2人はハイチからの有色人種の養子。自分で生んだ最後の子は妊娠中にダウン症で生まれる確立が高いと医者にいわれたが出産を選択し、障害を持っています。

 ホワイトハウスに今回招かれた時に7人全員を連れてきた映像が報道されました。最高裁の判事は9人で構成されているので、9人家族の彼女は慣れているという冗談も飛び交ったようです。

 彼女も夫もカトリック教徒でなおかつ信仰の原点回帰をめざすカトリック・カリスマ刷新運動のメンバーで、キリスト教の教派を超えた教会一致運動であるエキュメニカル運動に参加しています。産児制限の禁止を守る厳格なカトリック教徒は子供が多い。子供は神の意思によって生まれてくるのであって、人工的操作は好ましくなく、子供が多いのは神の祝福と考えられています。

 フランスでも私の妻の故郷であるカトリックの保守派が圧倒的に多かったブルターニュ地方では、産児制限は神父と相談し許可を得る必要があったといいます。

 養子をとる習慣もキリスト教の重要な教えの一つで、震災で親を亡くしたハイチの孤児を2人も養子にしているのは、弱者救済のキリスト教の精神からすれば「良き行ない」の一つです。欧米では貧困地域からの養子は一般的で、理由は子供がいないからより、人道主義的色合いが強いといえます。

 有色人差別がアメリカの大統領選の争点になっていますが、白人夫妻で5人の子供のいるバレット氏は、有色人種を二人も養子にしていることで、リベラル派も文句はいえないだろういうということです。彼女の子供たちが最も愛しているのが障害を持つ末っ子だという話も、日頃、差別のない平等主義を中心に掲げるリベラル派も非難できないでしょう。

 アメリカのトランプ支持の保守派の友人は、数代に渡り敬虔なカトリック教徒ですが、彼が小さい時、母親と買い物に行った帰り、車の中で彼がキャンディーを食べているのに気がついた母親が「そのキャンディーはどうしたの」と聞かれ、「さっき、スーパーの戸棚からとった」と答えたら、「それは泥棒のすること」といって車でスーパーに引き返し、謝罪して金を払ったという話を聞いたことがあります。

 アメリカでの善良な親は、そうやって見本を示し、何が正しく、何が間違った行ないかというモラルを教える象徴的話でした。友人もその時の親の取った行動が忘れられないといいます。

 バレット氏の場合は私生活で、人種や障害者の壁を超えた家庭を持ち、実践していることが、アメリカ国民には伝わっているはずです。同時に職業として法と秩序を重んじる判事として、法解釈に厳密な法学者という点も注目点でしょう。

 彼女は判事としての仕事においては「私的価値観を持ち込まない」と明言していますが、信仰に決定的に反した裁可を下すことがないことは、誰もが知っていることです。なぜなら、一人の人間を心を2つに完全に分けることはできないからです。

 リベラル派はバレット氏の判事起用で、ますますアメリカが保守化することに強い懸念を持っているのは明らかです。前回の大統領選でクリントン候補は、大統領就任式で聖書に手をおいて宣誓する習慣はやめるといっていました。そのリベラル化の流れに保守派は今後、どのように戦っていくのでしょうか。

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