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 フランスでは新型コロナウイルスの感染拡大で延期されていた自転車の世界大規模のロードレース、ツール・ド・フランスが、ようやく無事に終わりました。

 今度は本来5月24日開幕だったテニスの4大大会、全仏オープン(ローラン・ギャロス)が今月27日に開幕するわけですが、フランスの感染拡大は止まらず、観客数制限をめぐり、葛藤が続いています。

 ツール・ド・フランスでは大会運営のトップが新型コロナに感染するなど多少のトラブルはありましたが、選手やチーム関係者の間で次ぎ次ぎに感染が拡がる事態だけは避けられました。

 春から夏にかけて目白押しのフランスのスポーツイベントの世界的大会は、全て秋以降にずれ込んでいますが、感染第2波に襲われ、緊張が走っています。カステックス仏首相は24日、観客数の上限について、主催者が予定している5,000人を1,000人に減らすべきとの考えを示し、大会主催者側は困惑しています。

 フランスでは24日時点の直近24時間の新型コロナウイルスの新規感染者数が、過去最多の16,096人を記録しました。新規感染者の7日平均も11,679人と1万人を超え、ヴェラン仏保健相が「全体として状況は悪化し続けている」との見解を示したばかり。

 一方、全仏オープンの主催者は、9月に開幕が決まった時点で当初、観客数を1日当たり2万人に制限する予定だったのが、9月に入ってからの感染者数の増加を受け、11,500人、5,000人と相次いで上限を引き下げていました。

 そこにカステックス首相が他のスポーツと同様の制限を設けるべきとの見解を述べ、開幕直前の対応に追われる事態になりました。開催地はパリ西部ブローニュの森に接し、同地区は現在の5段階の警戒レベルでは、上から3番目の「警戒強化ゾーン」です。

 制限措置としては、9月26日以降、大規模な集会は1,000人までに制限され、大規模な地域的イベント、フェスティバル、学生のパーティー等の開催は禁止というわけですから、首相のいうことは理に適っています。

 最近増えたスポーツの無観客試合や観客数制限は、当然ながら、主催者にとっては深刻な経済的ダメージをもたらしています。全仏オープンも例外ではありません。

 昨年、大会収入に大きな影響のある放映権の更新が行われ、2021年から2023年までの契約更改では、放映権の大部分は依然として France Televisionsが保有するものの 、残りはアマゾン社が獲得したと報道されました。

 実は全仏オープンはグランドスラムの中では唯一英語圏ではなく、放映権収入も昨年時点で2,400万ユーロ(約28億円)と、「ウィンブルドン」と「全米オープン」がそれぞれ約7,000万ユーロ(約83億円)なのと比べると低いといわれています。

 今年の大会までは、この金額が続くことを考えると、観客収入が激減する中では頼りの綱といえそうです。来年からは関係者の話では契約の更改で放映権収入は25%ほどアップするそうです。

 「全仏オープン」でアマゾン社は、2020年に開閉式ルーフが完成するセンターコート「コート フィリップ・シャトリエ」で、初日の夜に行われるセッションの配信権と、今年オープンした「コート シモーヌ・マチュー」で行われる全試合の独占配信権を得ています。

 一方、チケット収入の激減は目を見張るものです。昨年の大会での主要コートに入れない入場チケットの料金は日本円で約27,000円/枚、センターコートの一般席で約51,000円〜80,000円、BOX席は200,000円/枚前後で、男子決勝では一般席でも110,000円から265,000円/枚、ボックス席は約750,000円/枚でした。

 地元フランスでも庶民が観戦できるレベルのスポーツイベントとは言えず、海外から富裕層の観客が集る社交の場にもなっています。フランステニス連盟(FFT)のベルナール・ジウディセリ会長は延期の決まった5月に無観客開催の可能性について言及しています。

 会長は「会場で実施される大会であり、テレビの画面で放送される大会でもある」「世界中で多くの視聴者が待っているし、無観客でもビジネスモデルの一部は実施できる。つまりは放映権料(大会収入の3分の1以上を占める)で、無視できない要素だ」と語っています。

 大会の総収益は2億6000万ユーロ(約300億円)で、FFTの収入の8割を占めるそうです。毎年、約50万人の観戦者が訪れる同大会で、放映権やスポンサー収入が維持されたとしても観客数を1試合1,000人に制限した場合の減収は大きいのが実情です。

 フランスのテニス界にとって深刻なダメージとなりそうで、開幕直前の入場制限は大きな試練といえそうです。一方、アマゾンなどのネット配信のビジネスモデルはポストコロナで一人勝ちの様相を呈しています。

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