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 創設75周年を迎えた国連の恒例の今年の国連総会での注目のトランプ米大統領の演説は、予想通り中国批判が目立ち、中国の習近平国家主席は応戦に廻るといった状況でした。

 アメリカ人の友人で国連を高く評価している人間はほとんどいません。国連が世界の深刻な問題の解決に大きく貢献していると信じるアメリカ人はいないからでしょう。パリに本部を置く国連機関OECDへアメリカの復帰に松浦晃一郎前事務局長が尽力しましたが、アメリカは再度脱退しました。

 日本にとっては敗戦後の国際信頼回復の舞台が国連であった経緯もあり、国連は極めて重要な国際機関と位置づけられてきました。20世紀の2つの大戦で戦場となったヨーロッパも「戦争を繰り返さない」という意味で国連重視の姿勢を貫いています。

 しかし、世界の紛争地域を取材して分かることは、日本やヨーロッパが考えるほど国連軍は成果を上げていない現実があり無力です。むしろ場合によっては状況を複雑化させたりしています。OECDを含む国連機関の中身を見ても腐敗が激しく「何もしない」状態が散見されます。

 事実、松浦氏が事務局長に就任した1999年当時は、まず世界から集まった職員、特に幹部職員の腐敗を一掃することが最大の課題でした。どこからも大したプレッシャーが掛からない高給取りの名誉職的意味合いが強く、パリの一等地で優雅な生活を送ることが日常化していました。アメリカが高額の分担金を払うのを嫌ったのは当然です。

 今、米中対立、保守派とリベラル派の対立、独裁国家の権力者と民主化を求める民衆の対立、一部の世界的成功を収めたGAFAなどのグローバル企業と国家の対立、富裕層と貧困層の対立など、ポストコロナは分断が止まらない世界を作り出し、場合によっては物理的部分戦争も起きています。

 歴史家の中には、戦後の東西冷戦こそ特殊な時代だっただけで、世界は元の弱肉強食の混沌とした状況に戻っただけだと指摘する人もいます。本来、冷戦終結で国連の役割が増すと考えられたのが実際には分断が進んでおり、「共存」のキーワードは危うい状況で日本は国連重視外交の見直しを迫られています。

 一方、欧州連合(EU)は、一貫して多国間主義を主張し、国連重視の姿勢を崩していませんが、紛争が激化し、手に負えなくなるとアメリカを頼りにしているのが現実です。イラク戦争、シリア内戦、ISとの戦いではアメリカ率いる有志連合にEUは加わる形が多いのが現状です。

 人類の歴史を見れば、強い者が弱い者を飲み込み、高度な文明が下等文明を吸収することを繰り返してきました。帝国主義はその典型ですが、東西冷戦でも自由主義陣営に属すか共産主義陣営に属すかを多くの国は選択するしかない状況で、共存とはほど遠い状況でした。

 一方、戦争などの最悪の選択をしなければ、公正な競争環境は人類の発展には欠かせないという考えもあります。公正さを保つルール作りが国連の機能の一つですが、競争にはリスクも伴い、勝者が敗者を支配することにもなりかねません。これも共存は甘い夢でしかないことを思い知らせるものです。

 さらに東西冷戦がイデオロギーの戦いであったように、今は中国が21世紀の社会主義モデルを世界に伝播すると息巻き、アメリカを上回るパワーを得ることに必死です。彼らの中では最も強い者が世界のルールを決められるという信念があります。これはまさに帝国主義時代に聞いた話と同じです。

 そのパワーを得るために、不当に知財を入手し、不公正なやり方で発展を遂げる中国の手法も、一種の価値観に属するものです。地球温暖化に非協力だった中国が、あたかも自分たちが環境問題で先頭を走り、指導的存在だと主張する呆れた態度も日常化しています。

 新疆ウイグルや香港の弾圧も国家の治安維持の大儀を持ち出す中国に対して、欧米諸国は民主化や人権で対抗していますが、解決の道は見えていません。つまり、物事の善悪という意味での「価値観」で共有できないものがあるということです。

 自由世界からみれば「悪」とした思えない犯罪行為に対して、多国間主義は無力で偽善的理想主義に見えます。EUは対中政策を強硬路線に転換したといっても、善悪の価値観は相対的で不明確なままで腰が引けています。

 多国間主義で強調される「共存」は、悪の要素の排除がなければ、手段を選ばない野蛮な支配欲の強い国が善良な弱い国を飲み込む可能性は十分ありえます。日本は海を隔ててそういう3つの国の国に接している極めて危険を抱えた国といえます。夢見心地の多国間主義の幻想は役に立ちそうにありません。

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