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 日本は戦後、アメリカの圧倒的存在感により、アメリカの背後にある欧州は軽視するようになりました。そのため20世紀の2つの大戦以前に世界を主導してきた環大西洋同盟への意識は、あまりありません。無論、今はインド・太平洋が世界経済の中心になりつつあるわけですが、そこに先手を打っているのが中国です。

 今や中国にとって最大の敵となったアメリカに対して、中国から見える世界は大西洋につきだした日本とはまったく異なり、かつてのシルクロードをもとにユーラシア大陸の支配こそがアメリカに対抗する唯一の道です。広域経済圏「一帯一路」構想は、東の中国が西の到達点である欧州を手中に収めることです。

 欧州連合(EU)は14日、中国とオンラインによる首脳会談を行ないました。EU側からは議長国ドイツのメルケル首相、フォンデアライエン欧州委員長ら、中国側は習近平国家主席が出席しました。目的はEUと中国の投資に関する包括的合意達成を目指す首脳間の確認。

 年内に合意に至れば、欧州にとっては貿易の条件を定め、中国の補助金や欧州が保有する知的財産権の保護といった問題に対処でき、メルケル独首相の想定通りに事が進めば、気候変動対策における中国の役割を規定することにもなります。無論、中国投資による経済力恩恵への期待感が背景にはあります。

 では、中国にとってはどうなのか。一帯一路構想の最終到達点である欧州を手中に収めることでユーラシア大陸を支配し、さらにはアフリカ支配も視野に米・欧の大西洋同盟を完全に切り崩すくさびを打ち込むことが目的と見られています。

 当初、難色を示していた政府補助金の規制に対しても柔軟な態度に変わろうとしている中国は、米大統領選を視野に何がなんでも欧州との関係構築を急ぐ構えです。8月下旬から欧州を歴訪した中国の王毅外相は、今回の中・欧首脳会談の地ならしが目的でしかが、新疆ウイグル族や香港への弾圧に非難が集中し、欧州の空気の厳しさを痛感した旅でした。

 しかし、中国は多国間主義の欧州が、アメリカとは異なった世界観を持っていることを知っており、人権や政治問題と経済を切り離して考えていることも知っており、地政学的にも欧州に隣接するロシアへの警戒感は中国に対してはないと見られています。

 トランプ政権発足以来、大西洋同盟は陰りが見られ、特にメルケル氏はトランプ氏を敵視ししており、それが中国に対して脇を甘くしています。それに欧州産業界にとっては、成長するアジア市場へのアクセス確保は、EUの景気回復のために不可欠の条件です。

 欧州は対中警戒感が強まっているといいますが、アメリカ側に完全につくこともありえない状況で、大西洋の向こうアメリカと、シルクロードの向うにある中国を天秤にかけながらバランス外交を展開中です。本当はシルクロードの先にある日本との関係強化が重要ですが、中国にとってはアメリカとの関係の強い日本は邪魔の存在でしかありません。

 今回の首脳会談は 中国国営新華社通信が伝えるところでは、習氏は「平和共存、開放的な協力、多国間主義、対話と協議」の4つを強調し、言外に「アメリカこそ世界の破壊者」との認識を示し、多国間主義で嫌米のメルケル氏に共感を求めた模様です。

 欧州人は現実主義のアメリカ人、日本人と違い、理念的で観念的な美辞麗句が大好きです。中国共産党が最も得意とするところでもあります。コロナ禍で弱体化した欧州は中国にとって覇権外交の千載一隅のチャンスです。

 アメリカという敵と敵対する欧州を見方に取り込む敵の敵を味方につける外交戦力は、中国の非常に古くからある戦略の一つです。しかし、欧州では中国に甘いメルケル氏への批判の声も高まっており、旧中・東欧には多国間主義を偽善と見る見方も出てきています。

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