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 誰でも上品な人の方が下品な人よりいいと思うかもしれません。米大統領選で飛び出すトランプ候補への人格批判は「下品」という指摘で覆われています。あのリベラルなハリウッド関係者の中で保守的とされる監督で俳優のクリント・イーストウッドでさえ「トランプは下品すぎるのでバイデンを支持する」といったほどです。

 「下品な大統領は米国の恥だ」というわけですが、実はトランプ支持者の中で岩盤といわれてきた福音派や白人労働者階級は、トランプ氏の下品さをどう思っているのでしょうか。私個人はアメリカのバリバリの共和党支持者の友人が少なくないので聞いてみるとまったく違った答えが返ってきます。

 テキサス州出身でニューヨークで高校保険医として働くマリリンは「米国はIT、ハリウッド、ウォールストリートの金融業などの勢いが増したことで、リベラルな考えが蔓延り、保守はどう対抗すべきか危機感を抱いていた。トランプは伝統保守の価値観を守り、リベラル派に真っ向から挑む戦士だったので期待は大きい」という。

 もう一人、フロリダ州タンパで建築会社を営むリーフ氏は「最近、黒人の抗議デモが暴徒化するのに対して、人気裁判TVドラマのロー・アンド・オーダー(法と秩序)をトランプが強調しているが、白人警官に殺害された多くの黒人は、軽犯罪を繰り返す不良で警官にも反抗的だ。黒人差別ではなく、治安維持の当然の結果だ。トランプ氏の考えは正しい」といっています。

 多民族国家の米国、それも何より個人の自由を保障する国の秩序を維持するのは容易ではありません。米国のフロンティア時代から培われた正義の価値観は、悪を憎み排除することを当然としています。死刑制度が続く州が少なくないのはそのためです。黒人だから排除するのではなく、秩序を守る警官に刃向かう態度は許されないということです。

 保守派は善悪の価値観がはっきりしており、リベラル派は曖昧です。リベラル派は黒人が犯罪に走るのは差別によって苦しい人生を送っているからだという同情論が先にあります。30年間、フランスの治安分析を行ってきた私は、この保守とリベラルの治安に対する考えの違いを深いレベルで見てきました。

 左派が政権を取ると警察権力が弱められ、治安は悪化し、保守になると治安が落ち着くのが常です。イスラム過激派のテロが頻発するフランスで、左派は社会的差別を受け、犯罪に走るアラブ系移民の境遇改善が急務を訴えますが、解決には非常に時間の掛かり、すぐに効果が出る話ではありません。

 右派のサルコジ氏は、イスラム教の宗教的慣習である女性のスカーフ着用を禁じ、犯罪は厳罰で対応し、警察官の権限強化を徹底しました。抗議デモの暴徒化では極左の無政府主義者の活動家が紛れ込み暴力と破壊がエスカレートするのが常です。

 トランプ大統領が抗議デモが暴徒化する町の民主党の首長が、鎮圧に躊躇し、騒乱を抑えられないことを強く非難していますが、理由はどうであれ、暴力と破壊行為は許されないというのが法治国家の原則です。リベラル派はトランプは独裁者といいますが、実は極左の無政府主義者が紛れ込む暴力的デモの鎮圧には多くの米国人はトランプ氏を支持しています。

 無論、言い方はいつも下品です。しかし、饒舌なリベラル派の人道主義的発言に無力だった保守派の人々は、下品でもトランプを支持しています。左派リベラルは権力に抗する歴史が長く、戦術に長けています。マスコミや世論操作から煽動まで巧妙ですが、保守派は纏まりがなく、戦う術も知りません。

 今、リベラル派が気が狂ったように反トランプキャンペーンを展開し、「人格の破綻した狂人」と非難する作戦に出ていますが、実はトランプ氏の反リベラル攻撃はかなり本質をついており、それがリベラル派を苛立たせ、強い危機感を抱かせているのも事実です。

 人格批判でトランプ氏の女癖の悪さを指摘されても、大統領選で聖人を選ぶわけではなく「男なら誰でもそういう側面があるよね」程度にしか受け止められていません。民主党や親族のスキャンダラスな人格批判は、トランプ氏の致命傷になるとは考えられません。

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