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 9月1日、中国の王毅外相の欧州歴訪はドイツ訪問で終わった一方、欧州は中国の正体をさらに学ぶ機会となったようです。欧州を味方につけ、米国を牽制する狙いのあった欧州歴訪は、欧州が中国政府のウイグル族や香港への弾圧を想像以上に嫌悪していることを思い知らされる旅だったようです。

 世界第2位の経済大国で、しかも新型コロナウイルス感染をいち早く押さえ込み、経済回復を加速化させる中国は、米国の攻撃など欧州でははね除けられると判断していたのでしょう。しかし、昨年、中国の広域経済圏構想、一帯一路への参加を表明したイタリアを皮切りに、中国との経済関係が最も深いドイツで旅を締めくくる欧州5ヶ国訪問は成果が乏しいどころか、逆効果だったようにも見えます。

 最も中国に友好的なはずのイタリアのルイジ・ディマイオ外相でさえ、「香港の自治に疑問の余地はない」と述べ、国家安全維持法(国安法)の強引な施行を強く批判しました。最後の訪問国ドイツでは、台湾を訪問したチェコのミロシュ・ビストルチル上院議長について王氏が「自らの近視眼的な行為に重い代償を払うことになるだろう」と脅迫ともとれる発言を行ない、激しい怒りを買いました。

 ドイツのハイコ・マース外務相は1日、王氏との共同記者会見の場で王氏の傲慢な脅迫発言を批判し、「EUでは、国際パートナーとは手を取り合い、敬意を持って対応する。脅しはそうしたアプローチにふさわしくない」と述べ、日頃、中国を表立って批判しないドイツに異例の苦言でした。

 3番目の訪問国ノルウェーでは「過去も現在も将来も、誰であれノーベル平和賞を使って中国の内政に干渉するいかなる試みも断固拒否する」と述べ、香港の抗議デモ参加者にノーベル平和賞を授与しないよう要求し、その脅し発言も顰蹙(ひんしゅく)を買いました。

 フランスのエマニュエル・マクロン大統領は王氏の訪仏直後の28日のスピーチで、第5世代移動通信システム(5G)網を構築には、中国のファーウェイよりも欧州の通信業者が望ましいと釘を刺しました。具体的にスウェーデンのエリクソンやフィンランドのノキアの名を挙げ、ファーウェイ排除を覆す目論見には応じない姿勢を鮮明にしました。

 経済大国の威信で欧州首脳を跪かせようとした王毅外相は、彼らの常套手段である上からの交渉を仕掛けたことが逆効果となり、傲慢さと相手を尊重しない姿勢だけが印象づけられました。米欧共同戦線の盟切り崩しのため、欧・EUパートナー友好関係強化の王氏の旅は失敗に終わったといえそうです。

 特に欧州と環大西洋で長い友好関係を構築してきた米国のポンペオ国務長官が、王氏の前に欧州を訪問し、「中国はロシアより大きな脅威だ」と警告したことを王氏の欧州歴訪で、欧州は再認識させられたともいえます。欧州メディアの扱いも非常に冷淡なものでした。

 さらに香港の民主化活動家が王氏訪問の前に欧州を訪れ、中国の強権発動の深刻な現状を訴えたことも大きかったといえます。EU内で反中国のコンセンサスが醸成されるのを阻止する中国の目論見は、最初から欧州の現状把握を間違っていたともいえそうです。

 ただ、中国外交には、常に国内向けの要素が強いことも忘れてはならないことです。

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