shizo abe

 安倍首相の電撃的な辞職表明は体調不良によるため、同情と賞賛の声も多い。政治は結果が全てという意味では、ビジネスでいえば日本的ではない成果主義。混迷深める世界の中で未だに戦争被害を材料に日本をゆする中韓と隣接し、世界第3位の国家を率いるのは誰がやっても容易ではないのは確かです。

 欧州の反応は、欧州連合(EU)のミシェル大統領が28日、「首相の指導力の下でEUと日本が緊密で力強い関係を築いたことに感謝したい」とツイッター、フォンデアライエン欧州委員長もツイッターで「EUと日本の関係強化への献身と貢献に感謝する」と書いています。

 あまり日本では強調されない話ですが、2019年2月に経済連携協定(EPA)を発効させるまで尽力した安倍首相に対して、中国の経済的脅威に晒されるEUは大いに感謝しています。EPAは日本にとっては中国封じ込めの囲い込み戦略の一つにもなっていますが、EUにとっては極東の経済大国との関係強化は想定以上に重要さを増しています。

 メルケル独首相は「日独間の遠い距離にもかかわらず、両国は基本的価値を共有していることを示した」と高く評価するコメントを送りました。私が精力的に欧州の要人にインタビューした東西冷戦終結後の1990年代、多くの識者は旧ソ連の復興で政治的にも日欧は協調すべきというのが大半の意見でした。

 それが今、中国問題と対峙する欧州にとっては、日本との関係強化が別の意味で大きな意味を持つようになりました。イタリアなどEUより中国をあてにする国との関係強化で、中国はEUの切り崩しに躍起です。日本は今後、EPAを足掛かりに対中政策で政治レベルの協力関係をEUと模索する必要があります。

 その意味では、今や風前の灯火となった主要7ヶ国首脳会議(G7)の存在価値を再度強化する必要があると個人的には考えています。それは自由主義の価値観を守る必要が増しているからです。世界経済を牽引する先進7ヶ国は自由市場主義推進だけに注力してきましたが、今は自由と民主主義の価値観を共有する指導国という使命の方が増しています。

 トランプ政権はG7を軽視し、むしろ韓国やインド、ブラジルなど関係国を増やしたいとしていますが、経済だけの話ならともなく、世界覇権を画策する危険な社会主義独裁国家の中国と対峙するには、価値観の問題は見過ごすわけにはいきません。
 
 国際ルールを破り、勝手に領海線を引き直し、他国の主権領土を侵す姿はロシアも同じですが、この危険な問題を中国、ロシアが安全保障理事会の常任理事国になっている国連でくい止めることは不可能です。

 その意味で日米欧の指導力は極めて重要です。米国はトランプ政権になって以来、リベラル化が進む欧州との関係が冷え込んでおり、多国間主義を標榜する欧州にとっては米国より日本に親近感を持っています。メルケル首相は「安倍首相は常に多国間主義に向けて努力してきた」と評価し、ミッシェル大統領は安倍首相を「日本を今の多国間体制の柱の一つにした」と貢献を讃えました。

 EUは18世紀から続く環大西洋同盟が戦後も外交の柱であり、経済も米国依存を続けてきましたが、今は世界の中心軸が環太平洋に政治的にも経済的にもシフトしており、アジアで唯一自由と民主主義の価値観を共有できる大国の日本はEUにとって重要なパートナーという認識が芽生えています。

 日本は中国や他の新興国の台頭で、世界的プレゼンスが落ちているという指摘がありますが、多くの海外で活動する日本人はそうは思っていません。安倍首相の辞任で日本の存在感の大きさを再認識させられていると思います。過去のいかなる時期より日本の世界的評価は高く、日本の指導力が期待されてている時代はないということです。

 安倍首相は在任期間の記録だけでなく、外交で訪れた国の多さ、移動の距離、費やした時間も記録的です。日本が自国を成熟させ、指導力を発揮することへの貢献は正当に評価されるべきでしょう。誰もが心配するのは時期首相が親中政策に傾くことです。一見ビジネス的にいいように見えて、日本は全てを失う可能があるからです。

 ネクストコロナは過去にない不安定な世界になりつつあります。信念を持たない国はその荒波に飲み込まれていくでしゅう。その意味では日本は自信と確信を持った国になることは重要です。

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