USA vs China

 アメリカでは毎日のように悪いニュースが報じられています。米航空大手のアメリカン航空は25日、政府の雇用支援が延長されなければ10月1日に1万9千人の従業員を削減する方針を明らかにしました。欧米先進国は新型コロナウイルスの第2波懸念から、経済萎縮から解放されない状況が続いています。

 一方、中国は国民がマスクなしにコロナ禍以前同様、恐ろしいほどの密の状態でアミューズメント施設やスポーツ施設で夏の休暇を楽しむ映像が流され、他の先進国や新興国を尻目にこれ見よがしに経済活動も活発化させています。この状態が長期化すれば、世界第1の米国との差は縮まる一方です。

 米ウォールストリートジャーナル(WSJ)は、米大統領選が佳境に入る最中、「コロナ克服の中国、経済規模で世界一の米国に迫る」という記事で、世界銀行や金融機関が中国の経済成長を上方修正していることを伝え、中国の経済力はコロナで苦戦する米国との差を急速に縮める可能性が高まっていることを指摘しています。

 中国は今回の新型コロナの発信源であると同時に、どの国よりも早く、中国共産党の強権で徹底した感染予防策を講じたことで感染拡大をくい止め、経済活動を再開させています。秋以降もまったく先が見通せない死に体の先進国の経済沈下も追い風で、まるでコロナ禍は中国に味方しているようです。


 WSJは「中国が厳格な抑制措置によりウイルスを封じ込めたことを受けて、JPモルガン・チェースは、中国の今年の成長見通しを4月時点の1.3%から2.5%に引き上げた。世界銀行をはじめ、エコノミストの間でも、中国成長予想の上方修正の動きが出ており、中国は今年、主要国で唯一、プラス成長を確保するとみられている」と指摘しています。

 中国問題はトランプ米大統領にとって、大統領選を戦う最大の武器ですが、日頃、海外に関心のない米国民が、どこまで中国に危機感を抱いているのかは疑問です。米国の経済苦戦はトランプ政権のコロナ対策の失政だとする民主党のバイデン候補の主張の方が、なんでも中国のせいにするより説得力があるかもしれません。

 「中国は2008〜09年の金融危機でも、国家主導モデルで打撃を最小限に抑え込んだ経緯があり、今回のコロナ危機で米国の市場システムよりも中国の(管理型)経済運営手法が優れているとの確信を強めているはずだ」とWSJは指摘しています。

 それに現在、中国の南シナ海などでの国際法を無視した領海侵犯を繰り返す軍事演習も、アメリカが勝手に引いた領海線と批判することで、国内向けには国民団結を強化する効果を生んでいます。超内向きの中国としては米国軍の牽制行為を利用して政権の正当性を協調しています。

 「ブルッキングス研究所国際経済開発プログラムのシニアフェロー、ホミ・カラス氏は、コロナ危機を受けて、中国が2028年には米国と肩を並べるとみる(現在の為替レートに基づく金額ベースの予想)。コロナ以前の同氏の予想からは、2年前倒しになる」との予想を紹介しています。

 それとカラス氏の分析として「世界第3位の日本は、中国の背中が一層遠くなる一方で、パンデミックを克服した中国は経済力を一段と確固たるものにする公算が大きい」「国際通貨基金(IMF)によると、日本経済は今年、5.8%のマイナス成長に陥る見通しだ」と指摘しています。

 「ただ、中国経済の回復はなおぜい弱だ。貿易相手国が二番底に陥るリスクから地政学上の懸念まで、警告サインも随所で点灯している。また、専門家の間では、中国の経済指標に対する懐疑的な見方が消えない。回復が本物だとしても、持続可能ではないとの指摘もある」とも書いています。

 世界は今も虚勢を張るのが常識化している中国政府の発表する数字を頼りです。国際機関や欧米、日本の金融機関が中国経済を正しく分析しているとも思えません。とはいえ、他に正確な数字を知る手立てもないのが現状です。

 では、経済力を背景に社会主義を世界に広め、途上国から中国共産党に跪かせることをめざす中国の覇権主義に対して、アメリカは何ができるのか。トランプ氏は中国の危険を見抜いた唯一の国家指導者であるとともにアメリカ第1主義を掲げたために、勝ち目のない戦いに挑んでいるようにも見えます。

 21世紀に入り、アメリカが唯一世界に平和をもたらす大国というパクス・アメルカーナは、パクス・グローバリズムに姿を変えた一方、アメリカ経済を空洞化させ、想定外の方向に向かいました。トランプ政権はその軌道修正のために出現した政権ですが、同時に中国との戦いは、もはや一国で戦えるレベルを超えています。

 欧州大国や国連を支配する多極化均衡論に牙を剥くトランプ氏ですが、残念ながら彼らまでも敵に回して戦えるだけのパワーは、今のアメリカにはありません。つまり、少なくとも米国は自由と民主主義、法治国家という価値観を共有する国々と団結する必要があります。

 今、欧州も英国、フランスなどが対中政策の見直しに入っていますが、米国と価値観を共有しているとはいえません。経済力のない欧州先進国は中国の経済パワーを前に腰が引けている状態です。とはいえ米国と欧州先進国、日本が協調関係を保てなければ、中国の思う壺です。

 その意味で米国の次期政権は、単に米国が負担する他国の防衛予算を削減するため、相応の負担を要求するだけでなく、より緊密な協調関係を築くための大人の外交が必要です。トランプ政権があぶり出した中国の脅威にポスト・コロナでどう向き合うかをG7などで真剣に協議すべきでしょう。

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