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 「最近の若者は報道機関のニュースよりは、SNSで世の中の動きを見ている」といわれます。しかし、果たしてそうなのか。実は30年に渡り、海外生活の多かった過去を振り返ると、SNSなどがない時代から、日本人を除けば、総じて一般市民のニュースへの関心は極めて低いのが現状です。

 たとえば、パリで発行される英字新聞、米インターナショナル・ヘラルド・トリビューン(現インターナショナル・ニューヨークタイムズ)のコラムニストで友人だった故ウィリアム・ファフ氏は「私の記事の読者は米国人は少数派だ。CNNやニューヨークタイムズ、ワシントンポストだって、一般の米国人は見ないし、読まない」と私にいったものだ。

 「米国人の多くは自分の住んでいる町や、せいぜい州のことには関心があるだけで国全体とか、まして世界になんて関心はない」と彼はいっていた。たとえば、フランスで発行されている世界で知られる左派系新聞のル・モンドの発効部数も昔から極めて低い。多くの国は階層製が強く、意思決定に関わるインテリで富裕層、指導者層しか、真面目なメディアを読んでいない。

 たとえば、米国の大統領選挙も投票が行われる2か月前あたりに、ようやく有権者は候補者に関心を持つのが普通です。それまでは多くの国民は誰が候補者かも知らず、まして候補者の政治信条や争点を知っている人は非常に少ないのが現実です。

 日本の今の若者が政治に関心が薄いというなら、他の先進国は前世代を含め、昔から薄い。さらに2000年以降、米国では「ほとんどの州で若者票は一定か減っている。結局のところわれわれが期待するほど、若者は政治に前向きではない」と大統領選の度に出口調査を行ってきた米ハーバード大学ケネディ・スクールの世論調査部長、ジョン・デラ・ヴォルピ氏は指摘しています。

 フランスの中間層は新型コロナウイルスの世界的感染拡大が始まった今年2月時点で、その事実を知る人は非常に少なかったことが世論調査で明らかになっています。欧州で最初にパンデミックが始まったイタリア国民の多くも、政府が1部の町のロックダウンを始めるまで何も知らなかった国民は多かったことが分かっています。

 ところが人の命に関わる疫病の感染症の世界的拡大が身近に迫ることで、日頃、ニュースなど見ない人たちが、ニュースを見るようになったのは世界的現象です。それも自分の意見を述べるSNS上に貼り付けられた報道機関のニュースを見ている人が圧倒的に多く、いつもはニュースに関心のない一般市民はフィルターの掛かったファイクニュースにも振り回されています。

 コロナ禍のおかげで世界中の報道機関は大忙しで、不謹慎ながらネット時代で衰退し、苦戦状態の報道機関はコロナ特需の恩恵を受けているともいえます。コロナ情報を見るついでに政治も目に入ってきて、若者の間で多少は政治意識が芽生えているという見方もあります。

 それでも感染拡大が深刻な英国にいる友人に電話しても、「そんなに大変なんだ」という程度の反応が多く、実感はありません。議会制民主主義の発祥の地といわれる英国でさえ、ニュースを見ない人の方が多いくらいで、マスクをしないで外を歩いていると騒いでも、そもそもマスク着用がそんなに重要か知らない人は世界には多くいます。

 若者は政治の未来といいますが、そもそも関心がなければどうにもなりません。関心のある層はきわめて詳しく、ない層は驚くほど無知で2極化しているように見えます。最近、健康不安が騒ぎになっている安倍首相の支持率が、コロナ感染対策で先進国中、最もいい結果を出しているにも関わらず、下がっている現象について、本人も「理由は分らないが、不徳の致すところ」と答えているそうです。

 実は、報道機関の多くも世論調査から政治の現状を読み解くことに苦労しています。選挙予想に至っては、この20年間で世界のメディアが的中させた方が少ないくらいです。たとえば米大統領選の世論調査で民主党のバイデン候補優勢といっても、そもそも大統領選の候補者が誰かも知らない米国の有権者は多くいます。

 つまり、誰を支持するかという場合、熟慮することなく、その時の気分や感情で投票する人は少なくありません。私から見れば、他の先進国に比べ、日本人のニュースへの関心はけっして低い方ではありません。若者がニュースを見なくなったと嘆く人もいますが、それでもコロナとまったく無関係に生きている人はいないでしょう。

 逆にいえば、海外メディアの多くは、その国の実情を正確には伝えていない場合も多いということです。その国の主要メディアの報道を金科玉条のように信じる日本の報道機関は愚かといえるかもしれません。日本の報道機関ほど客観報道にこだわる海外の報道機関はないかもしれません。

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