digital revolution

 フランスの大学で教鞭をとっていた友人が、大学を止めるといいだしました。理由はコロナ禍でリモートワークを強化する大学側が、さまざまなデジタル技術を講義に導入し、教員もその技術を使いこなせるよう要請されたからだそうです。

 70歳に迫る友人は金融系コンサルティング会社を40年経営する傍ら、20年前に知見を買われ、某ビジネス系大学院で講座を持つようになり、本人もかねてから研究したいテーマもあり、若い学生に接することで刺激もあって満足していました。彼の講座は大学で評判になり、今では看板教授の一人です。

 彼がいうには「この20年、技術革新で何度か大学を辞めようとも思ったが、自分のビジネスにも必要なテクノロジーでもあったので、面倒だとは思ったがなんとかやってきた」「でも年齢も年齢だし、リモート授業の準備の大変さを味わって、辞めることを決意した」と説明している。

 大学側は看板教授の撤退は困るので、大学が進めるデジタル化を苦痛を感じる教授たちに対して、アシスタントをつけることを検討し、9月末からの新年度でその友人も技術サポートのアシスタントがつけるといわれているそうですが、辞める意思は固いそうです。

 デジタル化は利便性、効率性、節約などで、仕事の合理化をもたらしてきました。同時にそれを使いこなせない人々は落ちこぼれとなり、不利益を被ってきたのも事実です。銀行業務がいい例で、今ではスマホで口座開設から口座確認、振込振替など、ありとあらゆることができるようになり、銀行の店頭業務は激減しました。

 銀行のATMが全世代に定着するのにも数十年を要したわけですが、今ではデジタル化で店舗そのものが激減し、ATMもコンビニが銀行の窓口業務の役割を担う時代になりました。電子マネー決済が登場することで、キャッシュレス化が進み、そのATMで現金を引き出す頻度も減少しているそうです。

 とはいえ、高齢者の中には今でも通帳と印鑑を握って銀行の窓口に行く高齢者は多く、銀行側はデジタル化を加速させ、早く店舗もそこで働く人々も大幅に削減させたいところですが、なかなか利用者が変化についてきてくれないことに葛藤している現実があります。

 3密を避けることが必須のコロナ禍は企業にとってデジタル化を進めるチャンスと捉えられており、店舗機能を大幅に縮小し、窓口対面なしでさまざまな受付業務ができるよう切り替える事例が世界的にも急増中です。しかし、それでは困る機械を操作できない世代は一挙に社会の落伍者になる可能性もあります。

 金融が専門の友人は「高齢者に高額預金者が多く、彼らをデジタル化で切り捨てるわけにもいかない」といいますが、どこまで彼らに付き合えるかです。スマホを持たない高齢者に80歳過ぎてスマホを持たせ、銀行を管理しろといわれても無理があり、不平等感を与えているのも事実。

 デジタル化の象徴はパソコンの普及でした。しかし、パソコンの普及、進化は消費者に多大の苦痛と出費を強いました。たとえばテレビを観るのにリモコン操作は必要ですが、テレビの裏で何が動いているかなど誰も関心を持たず、使えています。

 ところがパソコンは守備範囲が広いだけでなく、時に専門知識がなければ使えません。そのパソコンも不完全で、テレビと比べたら比較にならないほど不具合が生じます。テレビがフリーズした話は聞きませんが、パソコンは反応が鈍くなったり、アプリが起動しなかったり、ネットが繋がらなくなったり、そもそもパソコンが起動しないこともあります。

 つまり、デジタル技術は成熟しておらず、成熟させるのに最終消費者が付き合わされているのが現状です。銀行業務もでシステムがダウンしたり、ハッキングされたり、預金がネット上から盗まれたりしています。デジタルテクノローを売る業者も一つの技術が売れる寿命が短いので不完全でも市場に送り出している現状もあります。

 その背景を考えてみると、技術オタクたちの閉ざされた世界での競争や自己満足があり、けっして最終ユーザーに利益をもたらしているとはいえない傾向もあります。特に日本の場合は優等生エンジニアが機能満載の製品を開発し、ユーザーは使いこなせていない現状は批判されながらも改善されていません。

 友人の大学教授のようにデジタル化との付き合いを諦める高齢者は今後、増える一方でしょう。貴重な彼の知見を学ぶ場は消えたといえます。これこそ、手段が目的化するデジタル化の最大の欠点でしょう。本来、全ての人々に安全と幸福を提供すべき優れたサービスの追求という目的が、先走る技術革新で見えなくなってしまっているというのは残念です。

 スマホを自由自在に使いこなせて、それで人間が幸せになれるわけでも成長するわけでもないはずです。それに「便利はリスク」です。デジタル化はリスクと隣り合わせで、安全性の担保にはなっていません。私はデジタル化には反対しているわけではありませんが、高齢者排除のデジタル化は失うものが大きいと考える1人です。

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