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 米大統領選を11月3日に控え、民主党はようやくジョー・バイデン氏を正式な指名候補に決定、現職のトランプ大統領との激しい選挙戦が始まりました。通常なら1年間かけて派手な選挙戦が展開され、各州での大規模な選挙集会が繰り返されるのが、民主党は対面集会を行わず、異例ずくめの米大統領選挙です。

 経済を含む世界情勢に多大な影響を与える超大国の指導者を決定する選挙ですが、トランプ政権を見ると、これほど大統領の言動がインパクトを与えた4年間も珍しいといえます。一つはトランプ氏が就任以来、毎日、それも1日数回、ツイッターで国民や世界に向かってつぶやき続けたことです。

 米国人は異文化研究でも、最も自分をさらけ出す国民性を持ち、本音と建前のギャップが少ないことが指摘されています。グローバルな多文化世界では自分を明確にすることは極めて重要で、真意をなかなか明らかにしないアジア諸国はおくれをとっています。

 では、共和党と民主党ではどちらが表裏が乖離しているかといえば、一般的には民主党の方が裏が見えないといわれています。クリントン元国務長官は再三「彼女はグレー」と言われ、何を隠している言われていました。夫の大統領選では不利な証拠を持つといわれた関係者が次ぎ次ぎに不審な死をとげ、妻の関与が囁かれました。

 一方、共和党の伝統保守の価値観は賛否はあっても米国人がもともと共有しているコンテクストです。中絶やLGBTはキリスト教保守は受け入れられない価値観で見えやすいといえます。

 無論、権力欲の強かった共和党出身のニクソン元大統領のように裏でウォーターゲート事件のように盗聴、侵入、もみ消し、司法妨害、証拠隠滅などを行った暗い影を持つ大統領もいましたが、外交に強いといわれる共和党の大統領は、日本にとっても戦後は付き合いやすい傾向があります。

 リベラルを信条とする民主党は基本理念にはヒューマニズムが色濃く、国内の弱者重視を特徴とする一方、伝統保守の価値観に対して反対する立場が基本です。ある人はフリーダムは単純に「自由」を意味し、リベラルは「何か既存の価値観や制度から解放する」ことを意味すると説明しています。

 民主党は、その意味でキリスト教の厳格な教義に支えられた中絶や同性愛禁止などに対して、同じキリスト教の考え方でもある「寛容」を重視する傾向があります。つまり、善悪の道徳的規範よりも、個人の自由に重点が置かれ、ハリス現副大統領候補が昨年、上院に提出した全米対象のマリファナの合法化、司法長官時代から主張したLGBTの市民権拡大は典型例です。

 つまり、米国の建国以来の価値観の中心に位置する「自由」の解釈が大きく異なっているといえます。共和党は規範をもとにした自由、民主党は寛容さをもとにした自由ともいえます。共和党は信仰と自由は切っても切れない関係にあり、信仰の自由を求めてピューリタンたちが欧州から移り住んだルーツを大切にしており、トランプ氏はホワイトハウスの敷地内に祈祷のための聖地を設置しました。

 対する民主党は宗教的規範よりは、単純に個人の自由、人権の保障を強調しており、特に民主党左派は伝統的全ての価値観に反対しており、サンダース氏のように社会主義者も存在します。しかし、社会主義には言論、信教の自由はないわけで、大きな矛盾を抱えています。

 今回の大統領選の争点は、民主党からすれば、リベラル派を徹底的に敵視すするトランプ氏が国を「分断」したことを強調しています。さらにはTTPやパリ協定、イラン合意からの撤退で、外交においても協調性がなく、世界の分断を加速化させたことを非難材料にしています。

 一方、トランプ氏はコロナ禍前の3年間の経済実績を強調しながら、米国第一主義が米国民に大きな利益をもたらしたとしています。ただし、コロナ禍で経済ダメージが深刻なため、この論点は有利には働かない可能性もありますが、民主党大統領で経済がよくなるという確信をバイデン氏が与えられなければ、トランプ氏には有利でしょう。

 コロナ禍で17万人超の死者を出したことで感染対策の不十分さをバイデン陣営は非難材料にしていますが、民主党のニューヨーク州のクォモ知事も足下で多くの感染者、死亡者を出しています。むしろ、コロナウイルスの発信源とされる中国の隠蔽を問題視するトランプ氏の方が説得力があるかもしれません。

 トランプ氏にとって深刻なのは、ホワイトハウスに巣くう限りなく不透明で傲慢な政治エリートたちを追い出し、政治を国民の手に取り戻せたかです。そして支持層であるグローバル化で職を失った白人労働者層を満足させるほどの職を創出できたかです。

 トランプ政権以降、生産拠点を海外に移した米企業の例もあり、思ったほど米企業のに米国回帰は進んでいない現状もあります。対中貿易戦争で犠牲を知られた農家がトランプ支持を続けるかも注目点です。

 バイデン陣営はトランプ氏の破天荒な言動をやり玉に挙げ、人格攻撃が今回の大統領選の材料になっています。オバマ前大統領もトランプ氏は「大統領の器に成長できず」と批判、バイデン陣営は過去最悪の大統領と非難しています。この批判、実は米世論調査会社がオバマ政権下で行った調査でオバマ氏を「過去最悪の大統領」と答えた人が多数いたことを思い出します。

 バイデン氏は民主党の大統領候補者にはめずらしく、外交のプロを辞任しています。1979年に第二次戦略兵器制限交渉(SALT II)をめぐる一連の旧ソ連との交渉で、旧ソ連に重責を担って送り込まれた若手上院議員だったバイデン氏が、グロムイコソ連外相から合意を得たという武勇伝はよく知られています。

 しかし、それから40年以上経っており、世界の情勢は大きく様変わりし、果たしてバイデン氏の外交手腕が健在なのかは、まったく不明です。いずれにせよ、トランプ氏にとってはリベラル勢力は敵視こそすれ、信念を曲げてでも多くの票を得たいという戦い方しない人間です。

 一方、バイデン氏は、トランプ再選阻止のためのトランプ攻撃に集中すると思われ、バイデン氏に不安を抱える民主党陣営内の穏健派と左派の結束が鍵を握ると思われています。ただ、超内向きのバイデン氏の勝利は中国の覇権主義に拍車をかけ、北朝鮮、イランを勢いづかせ、世界に深刻な悪影響を与える可能性が高いというのがビジネス界だけでなく、政治外交の専門家も懸念しているところです。

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