planning-620299_1280

 1980年代、日本ではコンセプト作りの重要性が強調され、なんでも「コンセプトは何か」という議論が活発だった時代がありました。ところがコンセプト作りは定着せず、状況変化に対応する柔軟さの方が重視される傾向は変わっていません。

 たとえば、フランスの自動車メーカー、ルノーと業務提携した日産自動車の幹部が、あるプロジェクトを立ち上げるための会議で、ヴィジョンやコンセプトを決めるのに長時間を費やす欧米幹部に対して、「なぜ彼らは具体的話をせずに観念的話ばかりするのか」とイライラしたという話を日産幹部から聞いてことあります。

 職人文化が濃厚な日本では、コンセプトより具体的な手順が気になり、マネジメントのトップの仕事はプロジェクトの具体化に重点が置かれる傾向があります。一方、欧米のアプローチはコンセプト作りを担うトップの階層と具体化する階層が分けられていることが多いという違いがあります。

 そもそも西洋から来たコンセプト作り重視の演繹思考は、一般的かつ普遍的な事実(ルール・セオリー)を前提として、そこから結論を導きだす方法で、キリスト教的普遍主義が背景にあります。一方、日本人が得意な帰納法は、さまざまな事実や事例から導き出される傾向をまとめあげて結論につなげる論理的推論方法です。

 帰納的アプローチは現実重視なので、変化する現実への対応力はある一方、重視すべきヴィジィンやコンセプトは現実の変化に振り回されることが多く、ブレやすい欠点があります。逆に演繹的アプローチは目標からブレない一方、普遍的と思われた前提が変化すると調整が難しいというデメリットがあります。

 事実や事例重視の帰納的アプローチは変化に強い一方、変化する状況に振り回され、その対応に時間を費やし「手段が目的化する」傾向があり、何をめざしているのかを忘れがちです。いわゆる現実に翻弄され、結果へのコミットメントが薄く、責任の所在も不明確になりやすいといえます。

 たとえば、安い労働市場を提供してきた中国、韓国、台湾に日本企業は1980年代から生産拠点を移し、国際的価格競争を確保しました。結果的に多くの高度な技術が盗まれ、日本の一流企業は世界トップの座を中国や韓国、台湾に明け渡し、今や彼らによる日本企業買収が始まっています。
 
 結果を見ると、日本企業の生産拠点の海外誘致の選択にデメリットをもたらす欠陥があったことは明白ですが、気がつくのが遅かった帰来があります。つまり、価格競争に打ち勝つための海外移転が命取りになるケースもあるという教訓が最近は強調されています。

 結果的に特許に象徴される技術や製品のオリジナリティという概念がアジアでは希薄なことに対するリスクマネジメントができていなかったことに、今になって気づいているという日本人の能天気さが命取りに繋がっています。

 これらも最初に決めるプロジェクトのコンセプトに含めるべき内容でしたが、十分に考慮されなかった結果といえます。つまり、何かを決める前提に甘さがあったということです。これが帰納的アプローチの欠陥ともいえるものです。

 日本の帰納的アプローチは変化に強いといわれますが、最初のコンセプトの甘さが重大な危機を招いているのも事実です。そこで重要なのは戦略です。戦略にとってしっかりとしたコンセプト作りは欠かせません。そのためには演繹的思考が不可欠です。それは危機対応でも重要な要素です。

ブログ内関連記事
なぜ日本の危機対応は後手後手? 先手必勝のはずが日本の非科学的な政治体質が障害なのでは
戦略立案が得意な欧米、具体化が得意な日本、両者を活かすグローバルマネジメントとは? 
こんなに違う欧米と日本の階層別の仕事の中身、では今後どんなリーダーが必要なのか