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 米国の大統領選挙が迫っています。ネックスト・コロナの世界に圧倒的影響を与える米国の政治状況に世界が注目しています。特に先週、民主党の大統領候補のバイデン前副大統領が、カマラ・ハリス上院議員を副大統領候補に指名したことが注目されました。

 米国の副大統領は、大統領が死亡・辞任・免職など大統領が職務を全うできない事態で核のボタンを含め、任務を引き次ぐ重要な位置します。故ジョージ・H・W・ブッシュ氏は副大統領か大統領になり、故ニクソンも副大統領の経歴を持ち大統領になっています。ルーズベルト大統領は、副大統領から大統領マッキンリーが暗殺されことで大統領に昇格しています。

 つまり、現在77歳(就任時78歳)の高齢者、バイデン氏が仮に大統領に当選したとしても、認知症の疑いもあり、大統領の激務に耐えられなくなれば、55歳のハリス氏が実質的な権限を持つ可能性も極めて高く、野心家のハリス氏が大統領ポストをめざしているのも明らかです。

 ジャマイカ出身の父とインド出身の母を持つ移民2世のカマラ・ハリス氏は、有色人種でなおかつ女性という強みを持っています。バイデン氏が勝利すればアメリカの政治を塗り替え歴史に名が刻まれるのは確かで、そのうち初の女性大統領誕生が実現するかもしれません。

 米主要メディアであるニューヨークタイムズやワシントンポスト、ABCテレビは「中道出身の民主党穏健派」と紹介しています。トランプ離れの無党派層の取込みが課題の民主党にとっては、ハリス氏は有色人種の女性で中道穏健派というのは、もってこいの存在です。

 ところが、政治歴は3年と短く、政治家歴ゼロのトランプ氏が1980年代から超著名人で政治発言も多く、考え方が知られていたのに対して、実はハリス氏の政治信条はあまり知られていません。主要メディアが中道という根拠も、それほどデータがあるわけでなく、民主党のメディア戦略が功を奏している側面が大きいといえます。

 ただ、SNS時代の今、主要メディアの流す情報をまるごと信じるアメリカ人も減っています。無党派の米議会監視サイト、ガブトラックの2019年調査によれば、ハリス氏は全ての米上院議員と比較して、最もリベラルと評価され、あの社会主義者のサッダース上院議員より急進左派の政治家とされています。

 各上院議員の発言や議会での投票行動、過去の活動などを分析するガブトラックは「超党派の法案に賛成票を投じた回数は民主党上院議員の中で最も少ない」と指摘しています。さらに彼女の政治的主張には、サンダース氏も驚くような夢見心地の環境や医療政策に莫大な予算を投じることが含まれ、アメリカ経済を転覆させるような政策を打ち出していると指摘しています。

 当然、中絶支持者の急先鋒で共和党保守派を代表するペンス現副大統領が「信仰を持つ個人としては中絶反対だが、政治家としては国民の声を聞く必要がある」と答えているようなバランス感覚は、どこにも見当たりません。

 これらハリス氏の言動はマイノリティーの女性議員の発言として、目立つことはなかったわけですが、民主党の左派はリベラルの手にホワイトハウスを取り戻すために、中道穏健派の仮面を被った副大統領候補を送ること決断したわけです。彼らがハリス氏を支持したのは彼女の社会主義的考えを知ってのことです。つまり、ハリス氏はホワイトハウスから保守派を完全に追放する刺客だということです。

 実は今回の大統領選の争点になっている対中外交では、トランプ氏はイデオロギーに踏み込んだ発言を繰り返しています。つまり、アメリカが最も重視する自由と民主主義、公正さ、正義といった価値観と中国のめざす21世紀の社会主義は、まったく相いれないことを強調しています。

 対中外交は、米国の高度技術を盗んできた過去や少数民族ウイグル族や香港の弾圧を見て、ほとんどのアメリカ国民が対中強硬路線に賛成しています。その意味ではハリス氏の社会主義的な左寄りの考えは封印する必要があり、バイデンに勝たせたい中国やロシアもメディア操作に協力しているはずです。

 バイデン氏自身も老練な政治家として穏健で当たり障りのない政策を打ち出すように見られ、中国とも仲良く共存していく姿勢を打ち出す可能性もあります。外交経験ゼロのハリス氏は民主党左派の外交政策に従うと同時に社会主義国、中国との対立を避ける方向に動き出す可能性が高いと思われます。

 ハリス氏の強みは、トランプ氏が嫌うグーグルやフェースブック、アップルなど巨大IT企業に支持されていることです。彼らもまた、リベラル派でハリス氏に好感をもっている。一方、ハリス氏の弱点は政治的豊富な経験も知識もなく、空気を読んで行動するタイプなために、民主党左派の確信犯の操り人形になりやすいという点です。

 民主党のオバマ政権もシリア問題を放置し、世界最悪のテロ組織、イスラム国(IS)を生むきっかけを作りました。ネックスト・コロナの混乱を避けるためにはアメリカの存在はあまりにも重要です。トランプ氏は国益最優先の自国第1主義を掲げましたが、中国と正面から対峙しています。

 それと有色人種女性であるハリス氏が有利とは簡単にはいえません。黒人差別への交互運動が高まる米国ですが、実は貧困層の黒人にとっては成功した有色人種も彼らの敵になりやすいという現実があります。特にハリス氏の場合は親の代から成功者で恵まれた環境に育ったことは黒人には共感を与えません。

 民主党左派が牛耳る政権が誕生すれば、シリアのISの時と同様、世界の秩序問題を放置し、世界の社会主義化が進む可能性も限りなく高まるはずです。それは世界のビジネス界にとっても、日本にとっても深刻なダメージとなるはずです。

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