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 ポンペオ米国務長官の米国の対中政策の根本的変更を示唆する発言は、コロナ時代の新たな日常という意味で最も大きなものだったといえます。反トランプのリベラルメディアは、大統領選での得点稼ぎの中国叩きといっていますが、実は「アメリカを再び偉大にする」というトランプ氏の公約に沿ったものです。

 最近は、ほとんど指摘されませんが、ポンペオ氏が国務長官に就任した2018年6月当時、米ウォールストリートジャーナル(WSJ)とのインタビューで語ったトランプ政権の本質は、最近の対中政策の変更とまったく矛盾しないものです。

 国務長官に就任時、トランプ氏とじっくり話した同氏は「トランプ政権は世界秩序の壊し屋ではなく、世界秩序を21世紀の現実に合わせようとしていることだ」と指摘しました。それは前任者のオバマ政策を否定し、自分を目立たせる試みというより、アメリカの偉大さを支える自由主義を死守し、世界にコミットしていくという米国本来のヴィジョンです。

 アメリカは人工的に作られた多民族国家であり、国家のヴィジョンである自由主義の理念を体現化しようという国です。それは東西冷戦で社会主義ソ連に勝利した後も変わらないはずでしたが、勝利者の驕りと油断もあり、経済優先のグローバリズムの牽引役を自認する一方で、社会主義は終わった価値観と思うようになりました。

 自由主義陣営に属する歴史の古いヨーロッパは東西冷戦の終焉後、旧中・東欧を欧州連合(EU)が取り戻しました。その後、政治と経済は別物だという認識のもとで中国接近を続け、唯一人権問題だけは譲れないとして中国のチベットやウイグル族弾圧に抗議するだけで経済関係強化を続けてきました。

 ソ連帝国が出現する前からの地政学的に密接な関係にあったロシアへの警戒感は、ヨーロッパでは冷戦終結後も継続していますが、遠い宗教的、文化的共通性がまったくない中国には無知でした。そのため、中国に投資し続け、彼らが豊かになれば、社会主義は捨てる時がくるという甘い考えをアメリカと共有してきました。

 ポンペオ長官がいうニクソン政権に始まった対中政策の誤りは、同じ流れにあるものです。つまり、西洋人のコンテクストで描いた国が豊かになることで富裕層出現⇒貧富の差拡大⇒共産主義の平等主義との矛盾⇒国民の政府への不満増大⇒言論統制への不満⇒富裕層も貧困層も自由を求める⇒社会主義体制崩壊というシナリオは、中国人には当てはまらなかったということです。

 なぜなら、西洋人の自由主義の価値形成にはキリスト教が大きく影響しており、中国には自由を希求する価値観が最初からないからです。馬賊の襲来に怯え、地域間の闘争が絶えなかった広大な国土に住む中国人にとっては、自由より安心、安全、安定が第1であり、彼らのDNAには自由を第1に考える価値観は存在しないからです。

 欧米人はそのことに気づくことはありませんでした。そういう日本も実は冷戦期に敗戦国として自由主義陣営についたものの、自由と民主主義を自らの手で勝ち取ったわけではなく、アメリカに押しつけられて体制が変わった国です。その恩恵は大きかったわけですが、欧米人のようなキリスト教的普遍的価値と捉えているわけではありません。

 しかし、香港が中国に取り込まれていく姿を見て、共産党独裁国家の恐ろしさを目の当たりにしている日本人も、このまま中国の動きを放置するのはいかがなものかと思い始めているのも確かです。これはビジネスマンにとっても重要な転換期にあるといえます。

 安い労働力の提供で国際競争力を増したグローバル企業は、それと引き換えに莫大な投資で得た高度な技術を盗まれ、気がつけば中国企業に飲み込まれる事態がすぐ先にあります。自由競争に理解を示すふりをしながら、自分たちは公正な競争とはほど遠い政府主導の国策で動く中国は、全てを飲み込む勢いです。

 自由主義を掲げる米国が敏感に今反応しているのは、米国の世界利権が侵されている以上に、米国が信じる価値観が破壊されようとしていることへの危機感があるからです。トランプ政権で経済が上向いたのはグローバル化に狡猾に入り込んだ中国が世界のルールを変えようとしていることを阻止する動きに出たからです。

 WSJは最近、香港問題で対中強硬路線は、たとえリベラルな民主党のバイデン氏が大統領になったとしても変えないだろうとしながら、心配なのは日本と韓国だと指摘しています。中国との経済関係が抜き差しならないものになっている両国は、米国に追随しない可能性があると指摘しています。

 つまり、中国の世界支配が強まるコロナ後の世界の流れを止めるのは手遅れかもしれないという懸念です。それは経済的支配にとどまらず、世界の社会主義化、統制経済化に繋がる最悪の事態を招きかねないということです。

 東西冷戦時代から日本は価値観の闘いは苦手でした。なんでも現実から帰納的に発想する日本人にとって、理念先行はむしろ違和感を覚えるものです。しかし、気がつけば強烈な中央集権、北京の天子(皇帝)の前に跪き、言論や宗教の自由を否定する世界になっていいのかということです。

 それは根本的にビジネス環境を変えるものであり、コロナ以上の脅威というしかありません。それにやり方を間違えば、台湾問題、南シナ界問題、尖閣諸島問題で戦争に突入する可能性も否定できません。そのために先進7ヶ国が、自由主義を守るための真剣な討議を行い、対処すべき時が来ていると私は思っています。

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