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 「コロナ禍の不透明感は継続している」ことを認めながら、トヨタ自動車が6日発表した2020年4〜6月期の連結決算(国際会計基準)は、純利益が前年同期比74%減にも関わらず、1588億円の黒字を確保したことを明らかにしました。トヨタはコロナ禍で独フォルクスワーゲンを抜き、世界1位に返り咲きました。

 日本の自動車9社の内、7社が同期に赤字に転落し、世界的にみても独BMWと仏PSAなど数社を除き、軒並み赤字なのに対して、トヨタは大幅減益でも黒字をキープできた理由は何か。それは「利益を出す体質」、すなわち原材料利用で無駄を省くなど、徹底したコストカットを実行した結果だといわれています。

 コストカットで思い出すのは、現在、レバノン・ベイルートの自宅が4日の大規模爆発で被害を受けた「コストカッター」の異名を持つ日産の元会長ゴーン氏の考え方です。徹底して無駄を省き、部品メーカーなどの関連企業との馴れ合いを排除し、「利益追求に集中する」という企業活動の基本に立ち返る方針を打ち出したことでした。

 ゴーン氏が会社の利益追求がいつしか個人の利益優先にシフトしたのは残念なことですが、ビジネス界に与えた影響は大きかったのは事実。つまり、事業の効率化で生産性を向上させ、「ジャスト・イン・タイム」で在庫を抱えず、極限までコストを切り詰めることで数字の上では利益を出し続けるのが企業の正しいあり方だと信じられてきました。

 事実、トヨタはそれを徹底して実行し、さらに中国市場の立ち直りの速さなどに助けられ、黒字を確保できたといえます。しかし、新型コロナウイルスがもたらしたリスクは、異なった問いをしています。それは想定外の危機、それも先行きも見通せない状況に対処する「備え」がないことがもたらす深刻なダメージです。

 感染第2波が秋以降本格化すれば、ただでさえ春の受注減の本格的なダメージが表面化する今年冬から来春に、さらなる衝撃が追い打ちをかけ、立ち直るのが不可能な企業が続出するかもしれない状況です。リーマンショックの時は金融機関を救ったのは各国政府であり、そのお金は国民の税金でした。

 今回も世界的に企業救済に政府が支払った給付金は、天文学的数字に膨れ上がっています。それは未来の世代が背負う借金として重くのしかかっています。しかし、見方を変えれば企業活動に間接的に一般国民が関わる度合が圧倒的高まっているともいえます。

 リーマンの時は金融機関が主で返済の見通しもあり、国税をつぎ込むことに一般市民は、そこまで関心はなく、せいぜい、税金で助ける大企業幹部の高額報酬が批判の的になったくらいでした。通常、企業経営に関心を寄せるのは株主ですが、コロナショックで全国民が企業経営に関心を持たざるをえなくなっています。

 これは企業活動の公益性、社会的責任が過去のいかなる時代より厳しく問われているということでもあります。子供や孫の代まで借金を残してまで企業を救おうという事態になったわけですから、資本主義のシステムそのものが大きな転換期に差し掛かっているといわざるを得ません。

 日本には近江商人が残した「売り手よし、買い手よし、世間よし」という商売の哲学がありますが、「世間よし」の重要性が増しているということです。つまり、競争原理だけが発展の原則ではなく、共存するための社会の協働のネットワーク作りをすることが、リスクに強い企業や社会を作るのには極めて重要ということです。

 近年のコンプライアンスの必要性も、その流れの中にあるといえます。ゴーン氏の失敗は「世間よし」に思いが至らなかったことなのでしょう。さらに企業の価値創造という考え方には、顧客と企業が共に新たな価値を協働して創造していくという基本姿勢が必要だということです。

 自然災害が起きた時、地元の人間の信頼関係が強固な地域は危機への対処、復興の立ち上がりが早いといわれます。つまり、ネットワークの強固さが被害を最小化するということです。ところが日本では小規模な町や村でも人間関係が希薄になり、信じられないほど倒壊した家屋が長期に放置されたりしています。日本が他国より人間関係を重視しているとはいえない事態です。

 コロナ禍で最も欧米のビジネススクールで注目されているのが「レジリエンス」(再起力)です。一般的に再起力は、迅速に発生した危機を正確に把握し、短期間、設備投資などを控え、主力部門以外を売却するなどし、市場が回復した段階で一挙に攻勢に出るのがレジリエンス企業のあり方といわれています。

 しかし、それだけでなく、日頃から関連企業から顧客に至るまで、強固な利他的協働のネットワーク作りを行い、価値創造のそれぞれがアクターとして自覚を持って動くことが求められていると思います。それはけっして馴れ合いの関係ではなく、価値創造というひとつの目標を共有、共感するエキサイティングな関係です。

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