Paris school1
 パリ15区の市立小中校、新年度の授業全面再開でこんな風景に戻るのか

 ヴァカンス真っ只中の欧州ですが、ドイツの1部では8月3日から学校の新年度が始まり、登校してきた小学生の中から新型コロナウイルスの感染陽性反応が出て不安が拡がっています。3月に行われた学校閉鎖による勉強の遅れを取り戻す秋以降の授業全面再開に暗雲が立ちこめています。

 多くの欧州諸国の小中学校は日本と違い、夏休みは短縮せず、フランスでは毎年恒例のコロニー・ド・ヴァカンス(林間・臨海学校)などで、いつもより基礎学力の補習に力を入れるなどしています。とはいえ、2か月近くのロックダウンによるリモート学習、その後の衛生基準を守る授業再開では勉強の遅れは明白で、失った学力を取り戻すのは秋の新年度以降ということになっています。

 フランスのブランケール教育相は「特に国語と算数の基礎学力を習得するため、9月より授業外の個別学習支援を強化する」と約束しました。国は教員に対しても柔軟性を持って生徒を成績評価するよう支持し、落ちこぼれ対策にも取り組むとしています。

 ところが、2カ月間の夏休みはほとんどの家庭が旅行に出かけ、今年は国内で済ませる人が圧倒的に多いといっても約3週間はヴァカンス先で過ごします。ビーチやレストラン、博物館などで多くの人と触れることになりますが、マスク未着用のパーティもあちこちで行われています。

 家族の一人がウイルスに感染すれば、家族全員に感染し、9月に子供が登校すれば、ドイツのように無症状の陽性者が学校にウイルスを持ち込む可能性もあります。そうなれば学校でクラスターが発生し、再び学校閉鎖という最悪の事態も考えられます。

 英ロンドン大学のユニバーシティ・カレッジ・ロンドン(UCL)とロンドン大学衛生・熱帯医学大学院(LSHTM)の研究者が今月4日「新型コロナウイルスの検査と感染者の追跡体制を改善しないまま9月に学校の対面授業を再開すれば、冬季にかけて感染拡大第2波が発生し、規模は第1波の倍になる」との研究結果を公表しました。

 研究論文は、医学誌「ランセット・チャイルド・アンド・アドレセント・ヘルス」に掲載され、「症状がある感染者の75%が特定され、これら接触者のうち68%が追跡された場合、もしくは症状がある人の87%が特定され、接触者の40%が追跡されれば、感染拡大第2波は防止できる」と試算しています。

 その一方で「効果的な検査、追跡体制が導入されないまま9月に学校の対面授業が全面的に再開されれた場合、1人の感染者が新たに何人に感染させるかを示す『基本再生産数』は1を超える水準に上昇し、結果、12月には感染拡大第2波がピークを迎えると予想、その規模は第1波の2.0から2.3倍になる恐れがある」と指摘しました。
     
 しかし、現実には症状のある感染者、ない感染者がPCR検査の徹底で特定されたとしても、感染ルートの不明者は非常に多く、ヴァカンス先が1カ所とは限らないため、感染ルートを特定するのは困難なのが現実です。

 そのため、学校の対面授業の全面再開、および保護者の職場復帰がもたらす感染拡大懸念は相当なものです。欧州では多くの国で3月からロックダウンと学校閉鎖が実施され、リモート学習に切り替えられました。基本はリモート授業とネット上から出された課題を自宅で行うことでした。

 結果、教師はリモート授業、課題作成や添削に追われ、親も自宅でリモートワークしながら、毎日の子供の勉強指導や管理に追われ、親も子供もリモートワークの困難さを体験しました。フランスでは教育省が9月以降もリモート学習を併用させる考えを示しています。

 しかし、リモート学習は親や兄弟の協力なしにはできません。移民の多い欧州では、その国の言語を十分に喋れない親も多く、教育レベルも高くない場合が多く、自宅で子供の勉強を手伝うこともできない家庭が少なからずいます。

 欧州は今、感染拡大第2波の本格化を警戒しながらも、授業の全面再開に向かっていますが、可能なら新年度開始前に小中学生全員のPCR検査を行うくらいでないと、クラスター発生の可能性は高いといえそうです。

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