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 困難な状況に遭遇した時、人間は瞬時に自分の身を守ろうとするは合理的な行動です。リスクに晒されながらも大胆であり続ければ、さらなるリスクに晒される危険もあります。今、飲食店やブティック、観光業に関わる接客業の人たちは、休業や閉店を余儀なくされていますが、当然、ビジネスの継続性も考えなければなりません。

 たとえばパリには邦人旅行者向けの観光ツアーガイド、宿泊施設、お土産品店、和食レストランなどがあり、邦人駐在員向けの日本食材店、本屋、学習塾、不動産屋などがあります。ところが3万人以上が新型コロナウイルス感染で死亡し、実質的に日本人観光客が入国しても帰国後、2週間の隔離が義務づけられているので、この数か月、フランスには来ません。

 駐在員も医療崩壊を恐れて一時退避ということで日本に帰国した人は少なくありません。日本ほどに感染対策でマスクの徹底着用もままならず、濃厚接触が日常化している習慣を簡単には変えられない状況の中、1,000しか感染死亡者が出ておらず、医療体制も万全な日本に退避するのは当然といえます。

 そのため、日本人旅行者、駐在員をメインの顧客とするビジネスは総倒れ状態で、長引けば倒産し、職業替えするしかない状況です。最悪なのは対邦人ビジネスの日本人依存度が非常に高いことです。彼らは日本人が消えることな想定していませんでした。

 そこで思い出すのは、某日系航空会社が世界中に展開していたホテルチェーンの崩壊の話です。パリにも近代的なデザインのホテルがありましたが、今は名前も変わり、フランスのホテルチェーンにマネジメントされています。その日系ホテルはバブル期にパリに来る日本人観光客、ビジネスマンの受け皿となり繁栄しました。

 しかし、バブル崩壊後、日本人利用者は激減したにも関わらず、ビジネスモデルを迅速変えられず、初期投資額も大きかったのと、アジアシフトした結果、手放すことになりました。彼らのビジネスモデルは、観光やビジネスで世界中を飛び回るアメリカ人を顧客とした米ヒルトンホテルに似ています。

 私も当時、ホテルビジネスのコンサルをしており、さらに私の義弟がパリの高級ホテルの支配人だったので、ホテル業界の動きは当時、つぶさに聞いていました。

 和食レストランも同様なケースですが、多くが外国人によって経営されているという性質上、最初から邦人客だけに絞り込まれていなかったことで生き残りの確立は高いといえます。邦人向けお土産品店の中には一等地に店を構え、邦人旅行者が顧客の8割を占めるような店は厳しい状況に追い込まれています。

 学習塾は以前からリモートワークが導入されており、その場所に行かなくてもしのげる場合もありますが、これまでのようには収益を上がられていません。日本人に特化した観光ガイドやコーディネーター、ビジネスの通訳で、それも個人でやっている人たちは、職業替えを迫られるほど厳しい状況です。

 これら邦人をメインとするビジネスは、面倒くさい異文化対応が最小限で済む利点があります。義弟が支配人をしていたパリ高級ホテルでは、支払いの段になって宿泊費を値切る客は毎日いたそうです。それが日本人泊まり客には一人もいなかったそうです。そんなコンテクスト(常識)が異なる客への対応が不要なのが対邦人ビジネスです。

 簡単に言えば内向きビジネスです。その内向きビジネスしかしてこなったビジネスモデルから崩壊が始まっています。それも日本ではなくアウェイでのビジネスです。最初からフランス人の客が9割の和食レストランではロックダウンさえ解除されれば客は戻ってきます。

 邦人相手のサービスは海外では超ニッチなビジネスモデルです。前提となる日本人が消えれば命取りです。コロナ禍でダメージを受けた彼らは、さらに保身に走り、店を休業し、高い家賃だけを払い続け、コロナの嵐が過ぎ去るのをじっと待っているケースは少なくありません。

 短期間であれば、休業や規模縮小という保身の処理も重要ですが、数年間、withコロナが続けば、財政面で体力のない小規模事業者は持ちこたえるのは不可能です。それと元来、邦人相手のビジネスは内向き思考です。困難に直面して、さらに内向きになれば撤退しか選択肢はなくなります。

 しかし、多くの場合、邦人相手のビジネスで現地にいる日本人たちは、生活基盤を築いてしまっており、帰国は考えられません。それに海外生活に憧れ、日本を脱出した彼らが日本で再スタートする選択肢はハードルが高すぎます。

 無論、世界で今起きていることが永遠に続くわけではないでしょう。人が動かなければ血液が止まった人体同様、あるのは死だけです。しかし、少なくとも同じ状態に戻れる可能性は高いとはいえません。ワクチンや治療薬が開発されても、全世界に普及するまでには何年も掛かることが予想されます。

 この危機から学習できることは、困難な状況に堪えられるビジネスモデルを考えることです。パリで邦人のみを対象にするビジネスは、この危機で一溜まりもありません。生き残れるのは接客業であればフランス人を相手にするビジネスに切り替えられた場合だけです。

 危機に直面し、保身のための迅速な対応も必要ですが、超内向き思考に陥ることは絶対に避けたいところです。むしろ、顧客ターゲットが日本人だけとかいう内向き思考のビジネスの場合は、外に市場を拡げ、顧客の幅を拡げる必要があります。

 30年年間、パリで邦人に支持されてきた和食レストランのオーナーが、日本人に気を取られすぎ、目の前にいるフランス人やヨーロッパ人客に目が行かなかった愚かさを反省しているという話も聞きました。難しいことですが、保身に足を取られず、未来思考、積極思考で前進する必要があります。

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