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 8月2日時点の話ですが、新型コロナウイルスの死亡者数は世界で68万人が記録されています。今のところ日本は1,008人と比較的少ない国の一つです。人口100万人当たりの死者数ではアジアではベトナム、台湾、中国、韓国に次ぐ低さですが、免疫力と国民の関係なども指摘されています。

 先進国という意味では日本は世界的に最も死亡者率が低い国のひとつですが、その理由を医学的、科学的に分析することは、今のところ不可能とされています。英BBCは1か月前、日本の感染者数、死者数が低い理由を探る特集を組みました。

 BBCは感染対策で強制力のある法律を持たない日本は、世界一の少子高齢化社会で、東京などの過密な都市、公共交通機関の超過密状態、狭い職場、狭い飲食店、狭い家、加えてPCR検査を徹底しない方針など感染対策で弱点になりそうな点をたくさん持ちながら、なぜ、感染死亡者数が少ないのかを探りました。

 麻生太郎副総理の「民度が違う」発言も紹介されました。いわゆる「X因子(ファクターX)」が、国民を新型コロナウイルスから守っているという東京大学の児玉龍彦名誉教授のアジア人に備わった歴史的免疫力説や、その説に反論する英キングス・カレッジ・ロンドン公衆衛生研究所長の渋谷健司教授の地域と死亡率の関係を「X因子」と関連づけるのは無理かあるという説も紹介しています。

 番組の結論からいえば、日本人の特別なX因子説はあまり説得力がなく、感染者数を抑えてきたのは3密を避ける対策が早期に徹底して国民全体で実行できたことではないか結論づけています。無論、それが正しいかを判断するには。さらに時間が必要でしょう。

 しかし、マスク着用のことだけでいえば、マスク着用習慣のない欧米諸国では、マスク普及に時間が掛かり、ロックダウンが解除されると、途端にマスクをしない人が急増しました。フランスもヴァカンスの季節でマスクをしていない人は今も増えるばかりです。

 マスク着用の義務化に反対する抗議運動まで起きており、個人の選択を重視する欧米ではマスク着用は自由選択にすべきという意見は今もよく聞かれます。ではマスクをしたくない人に話を聞くと、大抵の場合「面倒くさい」、「息苦しい」、「効果は怪しい}といいますが、マスクは自分のためというより、他の人にウイルスを感染させないためだと説明すると肩をすくめる人は少なくありません。

 そこには個人主義者の持つ個人優先の考えとリベラルな考えも伺えます。あらゆる文化的調査で欧米人が個人主義者であること、逆にアジア人は集団主義的傾向が強いという指摘がされてきました。それはステレオタイプの見方だという人もいますが、実は個人主義、集団主義の中身の理解には相当な幅があるのも事実です。

 今のヨーロッパの個人主義は、どちらかというとキリスト教を離れ、リベラリズムの影響を受け利己主義に近い状態です。個人主義は自分の意思を尊重するので、ヨーロッパで盛んな利他的な人道支援活動も自分の意志で行うものとの考えです。しかし、日常における個人の選択では自分を他人と切り離して考えるのが当然と考えられています。

 日本に住む西洋人の文化的違和感の代表が、人間関係重視の目に見えない微妙な決まり事が読めないことです。職場でも人間関係が、仕事そのもの以上に重視されているのが日本です。欧米社会でも人間関係がもたらすストレスはありますが、日本人のように相手の反応を見ながら行動することは皆無です。

 かつて明治維新で開国した日本では、欧米人は日本人より公徳心がはるかに高いといわれました。たとえばアジアの途上国、新興国では今でも「公共」という意識は高くはありません。家族や地域社会はあってもパブリックという概念は希薄です。

 しかし、今の欧米社会は公徳心という意味では、相当衰えています。新型コロナウイルスでマスクをするのは他者のためでしかなく、自分を守ることには繋がりません。つまり、他者への配慮が中心で、他人をどうでもいいと思うなら、マスクをする理由はありません。

 今の欧米社会で、他者をそこまで尊重する考えがあるかは大きな疑問です。日本人は花粉症などもあって自分を守るためにマスク着用が日常化しましたが、今回は他者のためです。マスク着用を守るかどうかは公衆道徳に関わる他者重視であることは確かです。

 フランスでは今、公共交通機関や建物内でのマスク着用は義務化され、違反すれば罰金135ユーロを払うことになります。重犯だと刑務所行きかもしれません。そうでもしないとマスクを着用しないからです。それでも若者を中心にマスクはなかなかしようとしません。きっと、自分をウイルスから守るためだといえばあっという間に普及することでしょう。

 無論、感染拡大と個人主義を結びつけるのは性急すぎる分析だといわれそうですが、マスク着用だけみると個人主義や利己主義を助長するリベラルな考えが大いに関係しているのではというのが、30年以上ヨーロッパに住む者の正直な感想です。

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