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 欧州連合(EU)は8月1日以降、域外からの渡航を受け入れる第1弾のグループとして日本を含む15ヶ国のリストを発表しました。新型コロナウイルスの感染防止の入域制限を行っていたEUは、EUより感染が落ち着いているなどの条件により、8月1日から渡航制限を緩和する方針です。

 夏の長期ヴァカンス時期の外国人観光者激減で疲弊する観光業を含む経済活動促進への配慮が伺えますが、実際には国境管理は加盟各国に権限がゆだねられており、各国で対応は異なる見通しです。EU域外開放は大きな一歩で3月以前、域外からの旅行者がウイルスを持ち込んだ事例を考えるとリスクのある決断です。

 しかも今、感染第2波が懸念され、加盟各国は移動制限やクラスター(集団感染)が起きている1部地域のナイトクラブや集会所の封鎖措置に踏み切っています状況です。ドイツは27日、感染リスクの高い国のリストから帰国する旅行者への無料の強制コロナウイルス検査プログラムを発表したばかり。

 リスト掲載国は日本、韓国、オーストラリア、ニュージーランド、カナダなどの15カ国で、当然ながら感染の多い米国やロシア、ブラジルなどは含まれていません。リストは2週間ごとに感染状況をみながら更新するとしていますが、リストはあくまで「勧告」で強制力はなく、渡航先の各国の方針を確認する必要があります。

 世界旅行ツーリズム協議会(WTTC)の調査報告によると、2019年のGDP(国内総生産)に対する旅行・観光産業の寄与額の国別1位は米国(1兆8390億ドル)、2位中国(1兆5850億ドル)で、3位の日本
(3,590億ドル)を大きく引き離しています。

 調査はオックスフォード・エコノミクスと組んで世界185カ国を対象に実施したもので、寄与額には、国内外の旅行者による宿泊や移動、飲食、レクリエーションなどの直接消費のほか、政府の投資なども含まれています。

 旅行者の支出額は1.7兆ドルで総輸出額の6.8%、設備投資は9,480億ドルで総投資の4.3%を占め、旅行・観光業従事者は世界で3億3000万人に上り、新規雇用のなんと4人に1人が旅行・観光業関係という驚くべき数字です。米国経済の大幅な落込みが指摘されていますが、旅行・観光業の落込みが経済に悪影響を与えているのは明白です。

 人が移動を止めることは、血液が循環しなくなるのと同じです。交通手段を利用することを止めれば航空会社は壊滅的状況に陥り、航空機メーカーからは注文が消え、減収による人員整理は不可避です。行った先で利用するタクシーなどの交通機関、宿泊施設、レストランの利用が激減すれば、彼らも立ち行かなくなります。

 当然ながら、そこに関わる燃料、食料、施設管理物資供給者も収入は激減します。レストランに食材を供給する農業、漁業も納品先を失います。観光では観光スポットの美術館や博物館、歴史的建造物、てーマパークなどの入館料が激減します。お土産品も売れず、ワインや香水、特産品製造業者も打撃を受けます。

 つまり、旅行・観光業のすそ野は非常に広く、旅行者の移動という血液が止まれば、末端の毛細血管に属する産業に至るまで壊滅的被害を受けるという「ドミノ倒しの経済被害」が拡がることになります。コロナ禍は人の移動制限で経済的な脳梗塞をもたらしているわけです。

 日本ではJR東日本も2020年4〜6月期の連結決算で最終損益が1553億円の赤字と四半期で過去最大の赤字になったことを発表し、来春の新規採用を控える方向だといいます。コロナ禍でダメージを受けにくいといわれていたインフラ企業にも確実にドミ倒しは襲っているということです。

 WTTCは、人の移動を制限するより、空港や鉄道駅、長距離バスターミナルなどでのPCR検査施設の増強を各国政府に要請しています。汚れた血を世界に流さないことは重要ですが、血を止めることは経済に致命的ダメージを与えるということです。

 無論、PCR検査の精度は完璧ではないので、将来的にはワクチン接種の有無などウイルス感染の多種のチェック機能を強化する必要がありますが、いずれにせよ、人の移動制限の長期化は計り知れない経済への悪影響を与え、一国の財政では対処できない規模になる可能もあります。

 その意味で国連、特に世界保健機関(WHO)が主導して、早急に交通拠点での検査機能の拡充を行う必要があります。そのための特別財源をあらゆる手段を通じて集める必要があるということでしょう。

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