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   米ワシントン大学の世界人口推計

 先進国の多くはコロナ禍対策として、どの国も大規模な財政出動を行っている。欧州連合(EU)も揉めに揉めた末、7500億ユーロ(約92兆円)の復興基金案で合意し、30年ローンで市場からコロナ債発効で資金を調達し、融資分の3600億ユーロを除けば、3,900億ユーロは帰ってこない金です。1部の欧州メディアは「これで30年間、EUは存続せざるを得なくなった」と皮肉っています。

 一方、日本を含む欧米先進国は少子高齢化が進んでいます。今は緊急時なので経済活動を大幅に制限するコロナ感染対策と、経済そのものを守るためのリスクを伴う経済活動の両立が求められていますが、血液としての経済が回らない分、輸血を繰り返すしかありません。

 財政健全化のためにイタリアのように病院や医師、看護師の数、病床数、病院数の縮小などを近年行ったことが医療崩壊を招いていた現実もあります。そのため、感染拡大で経済活動停止に追い込まれた企業や人への支援だけでなく、医療体制の拡充にも国の金を注ぎ込む必要に迫れています。

 多くの国の政府は、緊急事態なので財政出動はやむを得ず、コロナ感染が鎮静化し、経済活動が再開すれば、借金は返せるとの前提で市場から多額の資金を調達しています。そこにはある程度の科学的根拠もあっての借金なわけですが、不確実な様相も少なくありません。

 その一つが人口問題。国連の世界人口推計2019年版では、世界の人口は2019年の77億人から2030年の85億人(10%増)へ、さらに2050年には97億人(同26%)、2100年には109億人(42%)へと増えることが予測されています。一方、増加率には地域差が大きく、65歳以上の年齢層が最速拡大すると予想しています。

 米ウォールストリートジャーナル(WSJ)は、国連の人口推計に異論を唱える米ワシントン大学の新たな研究論文を紹介し、「中国の人口は48%減の7億3200万人となり、世界の人口順位でインドとナイジェリアに次ぐ3位に後退する。日本や韓国、イタリア、ポルトガル、スペインをはじめとする23カ国・地域の人口は、ピーク時から50%以上減少する見通し」との予想を紹介しています。

 根拠は国連の予想には「従来の人口統計が世界中の医療や女性教育の継続的かつ将来的な向上を加味していない」ことや、「出生率の低下は、都市化に加え、識字率や避妊に関する情報へのアクセスの向上と相関性がある。女性が生殖生活をよりコントロールできるようになるためだ」と指摘しています。

 つまり、世界的に女性がバースコントロールを容易にできる十分な知識と方法が普及すれば、予期せぬ望まない出産は減少するだろうということです。同論文では「2064年に97億人でピークに達し、2100年には88億人に減少する」と予測しています。
 
 もし、この仮説のように40年後から人口減少が始まり、なおかつ少子高齢化も進めば「高齢者人口を支える労働人口の縮小で、世界中の医療や年金制度は大幅に圧迫されるだろう」とWSJは指摘しています。WSJの論文は、環境保護活動家が敵視する経済活動は、実は多くの問題解決をもたらすというWSJらしいアプローチですが、私は人口減少予想がもたらす負の側面を懸念しています。

 今、国がしている多額の借金は30年後には返済を終えているということで、ワシントン大学の論文からいっても人口は減少局面には入っていません。その意味では国家がデフィオルトに陥るリスクは少ないかもしれません。それに経済発展と人口規模は相関関係にあるとはいえません。

 それに将来の経済予想には非常に多くの要素が加わり、科学的根拠をもって予想するには、あまりにも不確実な要素が多いのも事実。実際、このコロナ危機の規模を予想した専門家などうません。しかし、グローバル経済は人口増加率が高い貧しい国の経済成長が発展の原動力になっている要素もあります。同時に先進国の高齢者を支える労働人口の減少が国の弱体化に繋がるリスクも無視できません。

 つまり、コロナ禍を乗り切るために莫大な借金を国がしている前提は、将来に渡って経済発展するための施策を持っているということになりますが、本当は不確実要素が多すぎで多額の借金は無責任な話になるのかもしれません。

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