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 バイリンガル国家として経済的利益を享受する国といえば、シンガポールやインドが思うつく。今や一国二制度が風前の灯火の香港も国ではないが英語と中国語のバイリンガルが経済を支えてきた。いずれにせよ、バイリンガルは強みになっても弱みにはならない。

 アジアのバイリンガル国は英国支配下で生まれ、英国の国際貿易の一翼を担ったことで発展がもたらされた。一方、新興国として頭角を表した韓国、台湾は欧州列強の植民地ではなく、日本統治の過去を持ち、80歳以上の世代には日本語とのバイリンガルも少なくない。

 当然、日本とは経済的繫がりも強く、戦後、彼らの経済発展に日本は大きな存在だった。ところが、台湾、韓国は日本語教育以上に今、英語教育に力を入れ、単に富裕層の子弟を米国に留学させるだけでなく、義務教育段階から幅広く英語教育を行い、英語とのバイリンガル人材育成に余念がありません。

 台湾の蔡英文総統は今年6月、「2030年バイリンガル国家計画」を実施する方針を明らかにし、10年間で、若い世代を中心に日常で英語を使う環境を整えていく考えを示しました。背景にはグローバルビジネスの基本が英語であり、同時にグローバルに開かれた国家戦略により、中国依存度を薄める狙いもあると見られます。

 中国へのアクセスを考える以上、台湾の強みは香港やシンガポール同様、同じ言語が母国語として使われていること。同時に香港やシンガポールは英語のバイリンガル国という強みがあるのに対して台湾は日常レベルので英語が使われる状況にはありません。

 国がグローバル市場に本格参入することを考えれば、グローバルビジネスは英米相手ではなくとも英語が世界共通言語だということ。中国が大国といっても、まだまだ先進諸国の企業の製造下請けレベルで、米中対立がコロナ禍後は欧州やオーストラリアを巻き込んだ中国覇権主義封じ込めに向かっていることを考えると英語教育は必須といえます。

 残念ながら対中外交で常に腰が引けている日本は存在感を失っています。自由と民主主義を普遍的価値観として本気で守ろうという気概のない国は頼りにならない。今や米国は彼らにとって最も頼りになる国といえます。

 台湾のバイリンガル国家計画は台湾国家発展委員会が草稿し、2018年末には行政院(内閣に相当)が認可したもので、各政府機関のウェブサイトの英語版作成、国内の規制・ルールに関する書類も英語版を準備し、公共サービス提供機関、文化・教育関連機関の窓口でも英語で対応する体制を整備するとしています。

 当然ながら公務員の英語スキル向上も必須です。さらに重要なのは、技術系の国家試験を英語で実施し、試験合格者にはバイリンガルライセンスを付与するというものです。教育システムには完全なバイリンガル環境を整備するため法改正も視野に英語教育を充実させる構えで国家の本気度が伺えます。

 さらに日常生活への英語浸透のため、英語での放送を専門とするテレビ、ラジオ局の創設も後押しするとしています。台湾企業は国に先がけてバイリンガル教育を推進しており、今後、金融やIT部門で香港から流入するであろうバイリンガル人材を生かす環境作りも進めています。

 目標は国別の英語力を測る「EF English Proficiency Index」の最新指標で最高値を叩き出すオランダ。グローバル商人国家として長い歴史を持つオランダは、北欧やシンガポールを抑え、英語力では世界トップ。実は彼らは英語だけでなく、フランス語、ドイツ語、イタリア語など3つも4つもの言語を操れるオランダ人は多い。

 アムステルダムに住むニューヨーク出身の米国人の友人は「こんな綺麗な英語を喋る人たちは米国にもいない」と賞賛している。オランダにせよ、北欧諸国にせよ、英語によるテレビ、ラジオ放送は一般的で、台湾もそのような国をめざすとしています。

 台湾教育省は英語教育推進のため、外国人教員の人数を現在の年間80人から将来的には同300人に拡充する方針を打ち出している。同省によればバイリンガル教育の来年度予算獲得に向け、従来の約10倍に相当する20億台湾元(約72億円)の予算の申請準備を進めているといいます。

 それも従来の読み書きの英語教育から聞く力や話す力、生活での運用能力を重視する教育に変えることで、英語の日常定着を行いたい旨を現地メディアは報じています。無論、言語だけでなく異文化理解などグローバル人材育成にはトータルに取り組む必要もあります。

 中国離れ、グローバルビジネス本格参入を国家目標に掲げる台湾を今、アメリカも後押ししている形です。アップルなど米大手IT企業も誘致を進める台湾は、国ごとアジアのシリコンバレーにする勢いです。後発で小国のメリットを持つ台湾のグローバル戦略の本気度は興味深いものがあります。

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