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 フランス政府は次世代通信規格「5G」の整備計画を急いでいるにも関わらず、フランスの複数メディアによると中国の通信機器最大手、華為技術(ファーウェイ)製品を排除する非公式な通達を行ったと伝えました。

 英国が安全保障上の問題でファーウェイ排除を表明しているのと同様の理由のようですが、米英仏の足並みが揃った今、ポンペオ米国務長官の中国の封じ込め政策は本格始動するのでしょうか。個人的には今後の行方に重大な影響を与えるのは日独だと見ています。

 ルメール仏経済・財政相は今月21日、ファーウェイによるフランスへの投資を全面的に禁止する計画はないと述べる一方、国益は守るため機密性の高い部分は保護する意向を中国当局に伝えたことを明らかにしたばかりでした。

 フランスの国家情報システムセキュリティー庁(ANSSI)のプパール長官は今月6日付の仏経済紙レ・ゼコーとのインタビューに答え、同国としてファーウェイ採用は最小限に止める方向だとし「当然のことながら」ファーウェイの存在は薄れるとの認識を示していました。

 仏経済紙、レ・ゼコーやフランス・ラジオRF1は、大都市での20年中の5G提供を目指すフランス政府が、ファーウェイ製品を使う仏通信会社に対して、事業許可を3〜8年間しか与えず、更新もしない意向を非公式に伝えたと報じました。結果としてファーウェイは2028以降使えないということです。

 つまり、英国同様、今すでに設置されているファーウェイ機器は2028年までしか使用できないだけでなく、今後の新たな導入の選択肢から外される可能性が高まったということです。フランスと英国は多少事情が異なるとはいえ、ファーウェイ排除にかわりはありません。

 ファーウェイは今年2月、5Gのフランス及び欧州市場での通信機器シェア拡大の第1歩として、フランスに5G 網用の無線機器を生産する工場を建設する方針を明らかにしていました。中国国外初の海外生産拠点建設ということでフランス政府はファーウェイを全面的に後押しする方向に見えました。

 仏通信大手のSFRやブイグテレコムは4Gで、すでにファーウェイ製品を使用しており、今後、フランス各地の5G通信網整備で他メーカーへの切り替えを迫られることになります。

 フランス政府は5Gに関しては、その速度や大量データの移動が可能なことから、安全保障上からも従来より厳しい審査を行う新法を2019年に制定。ANSSIが慎重な協議を重ねる中、情報漏洩などの安全を担保できないと結論づけたと見られます。

 背景には技術的問題として、米商務省がファーウェイに対する禁輸措置強化で、事実上、5G製品に必要な半導体調達が困難になっていることで、安全性を担保できないとの判断に繋がった可能性もあります。

 さらに英国の今月14日のファーウェイ排除表明同様、香港の国家安全維持法の強引な施行による国際協定無視の全体主義の行使、ウイグル族への人権と宗教弾圧、新型コロナウイルスの初動の遅れの隠蔽などで中国に対して強い不信感を抱くようになったことも挙げられます。

 中国当局は、米英が導入を進めるエリクソン(スウェーデン)やノキア(フィンランド)製品への制裁にまで言及。今後、ファーウェイ製品に寛容なスペイン、中国に甘いドイツやイタリアが、欧州連合(EU)内で足並みを揃えるのかが注目されます。

 中でもドイツは、米英仏がファーウェイ排除で足並みを揃える中、あくまで中国との関係で「経済と政治は別物」との考えを貫き、中国重視を継続する方針を変えていません。シュタインマイヤー独大統領は、香港で起きている中国の強権弾圧について「非常に不快だ」と述べ、ドイツ政府の対応の甘さに警告を発したばかりです。

 ポンペオ国務長官は23日、対中政策について米国の歴代政権が続けてきた「無分別な関与という古いパラダイムは失敗した。我々は続けるべきではない」と述べ、「ニクソン大統領の歴史的な訪中によって我々の関与戦略は始まった。その後の政策当局者は中国が繁栄すれば、自由で友好的な国になると予測したが、関与は変化をもたらさなかった」との認識を示しました。

 ポンペオ氏は、逆に西側諸国が中国への投資を続けたことで、その間、中国が経済成長と共に中国式社会主義による世界制覇を狙うようになったと指摘し、中国に対抗する有志の民主主義国家による新たな結束を呼び掛けました。

 個人的に私は20年以上前から、欧米諸国が考える「経済発展が自由と民主主義への転換をもたらす」との考えは幻想にしか過ぎないと主張してきましたが、その考えにも合致します。殺戮から生まれる度重なる権力者の交代と馬賊の襲来に怯えながら生活してきた中国人のDNAには、自由より保身に生きる精神が刻まれており、欧米人が考えるような自由で開かれた国への転換は期待できません。

 中国人には長い過去の繁栄した歴史から独特な文明観が存在し、そこには欧米人が考えるような自由、平等、公正さ、正義など、もともとキリスト教文明がもたらした価値観は存在しません。それより中国(漢民族)の世界的優位性と支配欲の方が圧倒的に大きく、それも極めて現実的です。

 ポンペオ氏の主張は、東西冷戦時代を彷彿とさせるもので、中国が考え方を改め、国内の人権を尊重し、言論の自由を保証する国になるまで徹底して封じ込めるというものです。そこには日本人には分らない信教の自由問題がかなり重要な比重を占めています。

 中国封じ込めで世界が結束するのは非常に難しいでしょう。世界がアメリカに圧倒的に依存していた時代なら、結束は容易でしたが、今は先進国は生産拠点で中国に圧倒的に依存し、途上国は多額の債務で中国に対しては弱腰です。それも中国政府は計算ずくで行ってきたので、アメリカの主張は遅きに失したかもしれません。

 それでも流れを変えられるとすれば、欧州で中国との経済関係が最も緊密なドイツと日本が、どのような選択をするかが鍵を握ると思われます。東西冷戦時代同様、欧米対中国対立に対して敗戦国として高みの見物を決め込むのかですが、それは許されない状況です。

 商人国家を脱するチャンス到来の日本ですが、財界にめっぽう弱い日本政府は期待が持てないかもしれません。高度な政治的判断が求められます。

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