leadership

 新型コロナウイルスの感染拡大による危機的状況は、世界的に見てもまったく先が見えていない。グローバル経済に最も影響力を持つアメリカは大恐慌以来の危機的状況に陥っており、人は大小の会社の規模の別なく務め先の存亡を危惧し、職を失う不安や家族を養っていけない恐怖に怯えながらの生活を強いられています。

 実際、世界的ブランドとして知られ、世界最古の紳士服販売店およびそのブランドで歴代米大統領も愛用した米ブルックス・ブラザーズの倒産は、私も愛用していただけに大きなショックでした。アメリカのプライドは次々に打ち砕かれ、世界に倒産の波が襲っています。

 問題はそれだけではなく、コロナ禍がそれまで表面化していなかった様々な問題を洗い出し、警察の暴力と人種差別の問題を巡る抗議運動は世界に拡大し、ただでさえ長期に活動自粛を強いられ、ストレスが溜まっているところに負の感情が吹き出し、収まる気配はありません。

 人の命に関わるコロナウイルスについては、感染拡大をもたらしている若者やナイトクラブで遊ぶ人々への憎悪が拡がる一方で、マスク着用やロックダウンに抵抗する人々と公衆衛生を優先する人々の対立もエスカレートする危険性が高まっています。

 そんな追い込まれた状況の中、リーダーといわれる人々は、なんとか組織を存続させるために差し迫った危機への問題解決の責を負いながら、同時に部下たちスタッフの不安や恐怖、極度のストレスにも寄り添っていく必要があります。平時に強いリーダー、危機に強いリーダーなどといっている場合ではない状況です。

 今こそ、日本の心理学者、三隅二不二氏が提唱し世界のビジネススクールで教えられているPM理論を再認識する必要があります。組織のパフォーマンスとメインテナンスは表裏一体という一見単純で当り前に見える理論ですが、非常に深い意味を持っている。

 危機的状況でのリーダーは、一方で業績重視のパフォーマンスを求められ、他方、仕事に関わるメンバーの心を通常より気遣わなければチームワークはうまく機能しません。そのバランスは日本の場合、高度成長期には右肩上がりの環境で保たれていたのが、低成長の過当競争時代でパフォーマンス重視に舵を取った結果、不正行為などの弊害を生んだのも事実です。

 PM理論はどちらが欠けてもうまくいきません。特に非常時だから人間的なケアを軽視していいというものでもありません。非常時の問題解決には正確な現状把握が不可欠。スタッフは情報の固まりなのでスタッフから上がってくる情報に耳を傾けなければ的確な判断はできません。

 とはいえ、判断を下すのは「落とし所を探る」ことではなく、豊富な情報から目的に合致するものを取捨選択し、正しいエヴィデンスに基づいた分析を行い判断を下し、迅速に方向性を示すことです。その能力がないのに調整役として優れているだけでは危機的状況でリーダーは務まりません。その一方でスタッフのケアも不可欠。

 ハーバードビジネスレビューは、神経回路の研究で課題解決のための陽性ネットワークである分析的回路(analytic network: AN)と、デフォルトモード・ネットワークである感情的回路(empathic network: EN)という、人間の脳の2つの重要な神経回路について説明している。
 「ANは、物事や出来事を理解するのを助ける。私たちが問題を解くときや、意思決定を下すときに使うのはANだ。これは抽象的思考、すなわち分析的思考(財務分析やデータ分析)をするときに助けてくれる。一方、ENは、私たちが環境を見回して、新しいアイデアや人に心を開くことを可能にしてくれる」とあります。

 ANは知的作業であり、ENは心に関わる作業ということで、PM理論に繋がるアプローチです。非常事の問題解決では抽象的思考や分析思考も重要ですが、そこに関わるチームのスタッフ一人一人の心の状態にも敏感になり、適切に対応する必要あります。

 旧約聖書にはモーゼがイスラエル民族をエジプトから救い出し、砂漠を彷徨いながら、神が準備したカナンをめざすストーリーがあります。モーゼは先の見えない砂漠の移動でひたする神の導きを信じ、前進するのに対して、ついていくイスラエル民族の中にはエジプトに引き返したい者、不平不満を口にする者、砂漠の生活で絶望する者もいたといわれます。

 今はまさにコロナ禍で先の見えない砂漠を彷徨っている状況。不安を訴え、恐怖におののき、会社の方針やリーダーに不信感を抱く社員も多いのが実情。東日本大震災の宮城県石巻市の大川小学校を襲った津波で大多数の教師と生徒がなくなった悲劇は、校庭でリーダー不在のまま、教員同士が言い争っている最中に津波に襲われました。

 リスクマネジメントの基本がリーダーシップと意思決定プロセスにあるという教訓を残したのに、未だにコロナの危機対応で迷走する日本政府を見ていると、そのヒューマンエラーが多くの犠牲者を出していることが伺え残念です。疫病対策でこんな状況ですから、有事となれば日本は勝てる可能性はほとんどありません。

 日本人が編み出したPM理論をもうひと度見直し、その深い意味を再認識し、危機に立ち向かう必要を痛感しています。

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