EU corruptionのコピー

 欧州連合(EU)首脳はコロナ禍で長い間テレビ会議を強いられ、ようやくブリュッセルで対面の首脳会議を再開したら、とんでもない5日間という長期戦になりました。同時にコロナ禍でEU自体の連帯が弱体化していることが露呈してしまいました。

 無論、当初から決着は困難と見られ、5月、6月時点では関係者の多くが合意は秋以降との見方を示していましたが、EUはコロナ感染第2波に襲われ、合意が遅れれば被害の大きいイタリアやスペインは国家として持たないリスクが浮上し、何がなんでも決着させる必要性に迫られていました。

 30年間に渡り、EUを取材してきた者として、今回ほどの危機を感じたことはありません。イラク戦争で足並みが揃わなかった時も、ギリシャの財政危機でユーロの信頼が傷ついた時でも、あるいはブレグジットが決まった時も、EUは試練をなんとか乗り越えてきましたが、各国首脳が保身に走る今回は様子が違います。

 EU首脳会議はブリュッセルで17日に開幕し、延長に次ぐ延長で協議は5日後の21日に決着し、過去最長となりました。議題の中心は新型コロナウイルスでダメージを受けた加盟国を支援する「復興基金」。議論の対立軸は補助金と低利融資の比率を巡る意見調整で、イタリアなどの南欧に不信感を持つオランダなどが返済不要の補助金の割合を押さえ込みたいため、果てしない議論が続きました。

 7月から議長国ドイツのメルケル首相はフランスのマクロン首相と協議し、大型の復興基金の概要を打ち出し、それを受ける形で欧州委員会が総額7,500億ユーロ(約92兆円)の基金を提案。仏独首脳は、コロナ禍の経済ダメージの大きいイタリアやスペインの救済を念頭に返済が不要な補助金を5,000億ユーロとしたい考えでした。

 20日夕方からの協議で補助金の占める割合を3,900億ユーロとする最新案で決着がつく可能性が出て、結局、21日早朝(日本時間同日午後)に決着しました。協議が難航したのは、自国の財政規律に厳しい倹約国といわれるオランダ、オーストリア、デンマーク、スウェーデンの4カ国が補助金部分を圧縮することにこだわったからです。

 補助金で大幅な恩恵を受けるイタリア、スペインが受け取った基金を債務返済に回す懸念もあり、結局、補助金3,900億ユーロ、融資3,600億ユーロとし、さらに倹約4カ国に、EU予算に拠出した分担金を払い戻す「リベート」の金額の積み増すことになりました。その結果、気候変動対策や技術革新などに割り当てられるはずだった分は削られました。

 オランダやオーストリア、ツクセンブルクの首相らは、ハンガリーやポーランドを念頭に強権政治で法の支配が怪しい国には補助金を出さない提案をしていましたが、この条件も合意に盛り込まれた形です。

 今回の首脳会議はEUのコロナ後の経済復興を占う重要な会議で、EU首脳としては最古参の議長国ドイツのメルケル首相の手腕にも注目が集まりました。ドイツ公共放送のZDFは、メルケル同国首相が「加盟国の多くでポピュリスト政党から圧力を受けていることや、独仏が独断で復興資金の話を進めたことに弱小加盟国が不快感を持っていたことを計算に入れていなかった」と誤算を指摘しました。

 確かにルッテ首相やクルツ首相の背後には影響力を増すEU懐疑派のポピュリスト政党がいて、2人はその代弁者でもありました。マクロン仏大統領が「EUは深刻な危機に直面しているという認識を共有する必要がある」と述べ、危機に瀕する加盟国を助けるのは当然としていますが、コロナ禍でEU離れが加速しているようにも見えます。

 実は倹約4ヶ国の主張は理に適っているとは到底いえないものでした。確かに4ヶ国はEU分担金に対してEUから受け取る補助金はわずかですが、実はEUのメンバーであることで経済的に多大な恩恵を受けています。オランダ経済の75%はEUに依存しており、貢献国だと胸を張れる様な事実はありません。

 しかし、そこはドイツやフランスが大人対応をしたということです。仏メディアは「今回のEUの復興資金を巡る鋭い対立はEUの歴史上最も厳しいもので、加盟各国首脳の妥協を許さない態度は、EUを深く傷つけ、弱体化させた」と批判しています。EUはすでにコロナ禍対策でも迅速に連携して対応できず、世界で最も感染拡大を許す結果になりました。

 コロナショックの試練の最中、ポピュリズムの自国中心主義が蔓延する姿は、EUの求心力の低下を如実に表したものといわざるをえません。過去に対立と戦争を繰り返してきたEUにとって、コミュニケーションを密にとれない現状は致命傷になりかねません。加盟国の保身がこれほど目立った首脳会議はEUの危機的状況を表しています。

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